響け！月夜のアジタート

疲れ切った様子でアントーニョが息を吐く。今のところ、マーガレットを目撃したという人は誰もいない。

「やはり、自分の意思でメグは失踪したわけではなさそうだね」

「昨日、あんなに笑ってたやつが自分の意思で失踪するかよ……」

レオンハルトの目に舞台へと続くドアが映る。昨日の歌は素晴らしいものだった。彼の足はそのまま舞台へと向かう。

「レオン、そんなとこにメグの失踪の手がかりなんてねぇだろ！」

「一応確認しておきたいんだ」

誰もいない舞台の照明はついておらず、薄暗い。昨日の歌声がレオンハルトの頭の中に鮮明に蘇ってくる。

（このステージにあの歌姫が……）

緞帳がステージには下りていない。レオンハルトはステージに立った。観客席をぐるりと見回す。すると、地面に何かが落ちていることに気付いた。

「これは……髪の毛。あの歌姫のものか」

それは雪のように白い髪だった。長さはマーガレットの髪の毛より短い。その髪の毛をレオンハルトが見つめていた時だった。

「昨日の歌は素晴らしかったですね」