オリーヴィア様は薔薇が好き。
それにしても、今宵は張り切り過ぎたでしょうか?
私までその横顔に見惚れてしまいます。眼福です。
「シェイエルン伯爵令嬢、貴女も薔薇の花はお好きですか?」
オリーヴィア様の隣でぽやんとしていたら殿方に声を掛けられました。
はい、シェイエルン伯爵令嬢とは私のことです。
ロザーリエ・フォン・シェイエルン。
親しい方からはロザリーと呼ばれております。
私は伯爵家の一人娘で、小さい頃からお母様と一緒にオリーヴィア様とそのお母上のミーナ様にお仕えしています。
立場としては、ミーナ様とオリーヴィア様のお世話係のような教育係のような、遊び相手のような……あら?
ちょっと自分の立ち位置が曖昧です。
一歳年下のオリーヴィア様とは立派なレディになるための作法を一緒に学んだ仲でして、つまりとっても仲良しなのです。
「はい。私も薔薇は大好きです」
「では貴女には僕が贈りましょう」
「まあ、ありがとうございます」
わざわざ私などにお声を掛けてくださったのは、侯爵家のご子息、レイノルド・フォン・オルトラント様でした。
私と同じ栗色の髪に緑の瞳。ようするに、この国には多くいる、とても平凡な容姿の殿方です。
そんなレイノルド様、実は私の結婚相手としてどうかとお父様に勧められた殿方でして。
彼の方から私との婚約の打診があったとか……。
正直「どうしましょう」というのが本音です。
私も、もう十八歳。そろそろしっかり結婚のことを考えないと婚期を逃してしまいます。
二十歳になるレイノルド様とは丁度いいのではないかと、自分でも思っておりますが……オリーヴィア様のことが気掛かりなのです。
私が結婚してしまったら、ここでのお役目を誰が引き継いでくれるのでしょうか?
私のお母様はミーナ様のお世話がありますし、今更オリーヴィア様に新しいお世話係をつけるなんて……ちょっと難しい気が……。
色々と、事情がありますから。