家族に支度金目当てで売られた令嬢ですが、成り上がり伯爵に溺愛されました
「今日、お兄様は?」

突然、ルシアが落ち着きなくあたりを見回した。

「セドリックなら、今日は午前中は書斎で仕事をしていて、今は——」

そう答える途中で、彼女は私の言葉を遮るように階段へ駆け出した。

「お兄様あっ!」

高い声を響かせながら、まるで駄々をこねる子どものように、彼女は屋敷の奥へと消えていく。

「ちょ、ちょっとルシア!」

慌てて私は後を追いかける。

ルシアが向かったのは、セドリックの私室だった。

ノックもせずに扉を開けると、そこには椅子に腰かけて本を読んでいた彼の姿。

「お兄様あっ、かわいい妹がお願いに来ました〜」

猫なで声で身をくねらせながら近づくルシアに、セドリックは目を細め、眉をひそめた。

「……何の用だ?」



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