家族に支度金目当てで売られた令嬢ですが、成り上がり伯爵に溺愛されました
「放っておこう。今は何を言っても火に油を注ぐだけだ。」

「でも――」

「大丈夫。怒りのままに飛び出したとしても、いつか振り返る日が来る。その時に、僕たちはここで変わらずにいればいい。」

ルシアは玄関で侍女を怒鳴りつけながら、馬車の用意を叫んでいた。普段なら優雅に身を乗りこむその姿も、今は憤怒に歪み、まるで別人のようだった。

「グレイバーンなんて、たいした家じゃないくせに……っ!」

怒鳴り声を残して、扉が勢いよく閉じられた。

馬車が動き出すと、屋敷には再び静けさが戻った。

セドリックはしばらく黙っていた。そして静かにソファに腰を下ろし、窓の外に視線を投げた。

「……あの子は、誰かに本気で叱られることがなかったんだろうな。」
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