家族に支度金目当てで売られた令嬢ですが、成り上がり伯爵に溺愛されました
その一言に、私は立ち止まった。

階段の途中、背後で交わされる声に、足が動かなくなった。

「何度も縁談が立ち消えになって……公爵家の名に泥を塗られているようなものよ。誰も“あの顔”を貰いたがらないの」

「“あの顔”……?」ルシアが、わざとらしく繰り返す。

私は踵を返して駆け戻りたい衝動を堪えながら、ただ、手すりを握る力を強めた。

冷たい金属が手のひらに食い込むのも、今は心地よく思えた。

“正直、あの子の婚約には疲れた”――

その言葉が、何度も頭の中を回った。

私は、家のために、家名のために、笑って従ってきたはずだった。

それなのに――疲れた? 恥だと?

私の何が、そんなにみっともないというの?

音も立てず、私は静かに階段を下り、人気のない廊下を歩いた。

胸の奥に沈むような痛みを抱えながら。
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