家族に支度金目当てで売られた令嬢ですが、成り上がり伯爵に溺愛されました
週末、早速グレイバーン伯爵が我が家を訪れた。

玄関から続く赤絨毯の上を、落ち着いた足取りで歩いてくるその姿は、確かに立派だった。

整った顔立ちに、深い色の瞳。噂に違わぬ“ハンサム”という言葉がぴったりの男性だった。

だが彼は、応接間に通されると、まっすぐに父と母のもとへと歩み寄り、私の前を素通りしていった。

「はじめまして。セドリック・グレイバーンです」

低く通る声が、部屋に響いた。

「これは我が家へようこそ」父が丁寧に応じる。

その間、私は立ったまま、居場所のない空気に包まれていた。紹介も、目も、言葉もない。

まるで私が“いないもの”であるかのように。

――ああ、やっぱり私に興味などないのだ。

そう思った瞬間、ほんの少しだけ、胸の奥がきゅっと痛んだ。
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