家族に支度金目当てで売られた令嬢ですが、成り上がり伯爵に溺愛されました
「何を読んでいるの?」私は紅茶を手に問いかけた。

「この前届いた歴史書の続きだよ。ロマニア戦争の記録だ。」

声に張りはあるのに、どこか穏やかで静かな調べのよう。

読書中の彼は、まるで別の世界に旅しているみたいだ。

ページをめくる指先の所作すら美しく、私はしばしその横顔に見入っていた。

「こうして静かに本を読めるのは、君のおかげだ。」

ふと視線をこちらに向け、セドリックが微笑む。

胸の奥が、じんわりと温かくなる。

静かな午後。文字と共に過ごすセドリックの姿は、私の何よりの安らぎだった。

ふとドアに目をやると、優雅な所作でお母様が入ってきた。

「お母様。」

私は立ち上がり、微笑んだ。
セドリックの母――グレイバーン伯爵夫人は、ルシアの騒動の最中も一言も文句を言わず、静かに私たちを見守ってくださっていた。
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