家族に支度金目当てで売られた令嬢ですが、成り上がり伯爵に溺愛されました
「嬉しいわ。実はね――」私は少し照れながら、部屋の棚を開けた。

そこから取り出したのは、編みかけのスタイ。

まだ糸がぷらりと垂れていて、未完成のままだったけれど、心を込めて編んでいる最中のものだった。

「あなたも編んでいたのね。」

母は驚いたように言った。

「スタイだったら、簡単だと思って……それに、私にもできそうだったから。」

親子って不思議だ。

考えることも、感じることも、こんなにも似ているなんて。

私たちは顔を見合わせ、ふっと笑った。

「よくできてるわ。」

「まだ半分だけどね。」

つい最近まで、私は母との距離を感じていた。

気持ちを素直に伝えられず、手紙にもよそよそしい言葉しか書けなかった。

でも――こうして一緒に手仕事をしながら、穏やかに言葉を交わせる日が来るなんて、まるで夢のようだった。

「また、教えてね。」

「もちろんよ。」

母の優しい声に、私は素直に頷いた。

編み物の針が、時を紡いでくれるような気がした。
< 274 / 300 >

この作品をシェア

pagetop