家族に支度金目当てで売られた令嬢ですが、成り上がり伯爵に溺愛されました
「何を困らせているのですか。」

セドリックがそう問いかけると、母は少しうろたえた様子で言葉を探していた。

「いやね、その……」

「この屋敷に住みたいって言いだしているの。」

私が母の代わりに正直に伝えた。

セドリックの眉が一瞬だけ動いたのを、私は見逃さなかった。

「住む場所ですか。」

「だからね。クラリスももうすぐ赤ちゃんが生まれるでしょう?私も手伝えるし……」

母は懸命に理由を並べ立てる。

けれど、どこか説得力に欠けていた。

セドリックは椅子に深く腰を下ろし、落ち着いた声で言った。

「まずは、お父様と話し合いを。」

その言葉に、母の表情が凍る。

セドリックは怒るでもなく、突き放すでもなく、ただ冷静にやんわりと断っただけだった。

でもそれが一番効いた。

「……話し合いなんて、もう無理よ。」

母は小さくつぶやいた。

「それでも、けじめは必要です。」

セドリックはそう付け加え、私の手を優しく取った。
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