家族に支度金目当てで売られた令嬢ですが、成り上がり伯爵に溺愛されました
夜になり、セドリックが帰って来た。

「おかえりなさいませ。」

私は立ち上がって出迎える。

「ただいま。」

真っ直ぐに私の元へ歩いてきた彼は、微笑むと、私の手をそっと取った。

「お腹が空いてますでしょう。夕食にしましょう。」

「……ああ。」

そう言って背中を向けたその瞬間、セドリックが私を後ろから抱きしめてきた。

「クラリスが……ここにいる。」

まるで、私の存在を確かめるような強い抱擁。

「帰って来たら、クラリスがいないのではないかと思った。」

「まあ、どうして?」私は驚いて振り返ろうとした。

「……夢じゃないかって思ったんだ。君が、ここにいることが。」

低く落ち着いた声で、けれどどこか不安げに。

私は静かに微笑み、彼の手に自分の手を重ねた。

「私は逃げたりしないわ。ちゃんと、ここにいるもの。」

その言葉に、彼の腕がもう一度ぎゅっと強くなった。

暖かくて、安心できる夜だった。
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