扇情的ナミダ
相手に聞くのもおかしな話だけど。
「知らないわ。ただ心音が、ありえない程に早くて息苦しい。」
少し乱れた息遣いと、頬の紅葉が体にも広がったような気がする。
ゾクリとした。
風邪をひいた時のような寒気にも似た感覚。
俺は誘われる様に、手を彼女の胸元に置いた。
跳ねるような反応。
驚いた表情と、俺に訴えるような視線。
「今日は泣いても許さないから。」
不意に出た言葉。
それに対して彼女は満足したような笑み。
そして、また涙ぐむ。
「確かに、前は私が泣いて謝れば許してくれたよね。」
微かな記憶が……
「汚いぞ、留惟。今、そんな記憶は。ちっ。」
思い出した記憶は、他愛のない日常。
だが今の感情を止めるものは、どんなものでも排除する。