扇情的ナミダ
連れ去りたい衝動と、立ち止まって観察したい欲求で葛藤。
一瞬、頭を過ったのは嫌われるかもしれないという考え。
冷静になる自分がいる。
今までは誰かからの好意が消えても、気にする事さえなかったのに。
俺は留惟を解放した。
「ごめん。」
自分の感情に動揺する。
急に降り懸かった恐怖。
「樋野くん?どうしたの、大丈夫?」
俺に何をされたのか、もう忘れたのかな。
こいつが俺を好きなのは本当なんだ。
告白は保留。
君が悪いんだ、俺に弱点を見せるから。
逃がさない方法を見つけてしまった。
「大丈夫じゃない。少し気分が悪いんだ。」
俺の沈んだ声に、彼女は心配そうな表情を向ける。
優しさが嬉しい。
それを利用したくて心が黒く染まっていく……