嫁いだ以上妻の役目は果たしますが、愛さなくて結構です!~なのに鉄壁外科医は溺愛を容赦しない~
「……まあ、君にとっては初対面の相手との結婚になるから、そう考えるのも理解できるが……」
「でしたらどうか──」
「だが、多くの記憶障害は一時的なものだ。焦って今婚約を破棄するのは得策じゃない。この結婚は親も関わっているしな」

 それは理解している。

 記憶はなくとも、血の繋がった父だ。
 恩返しに協力をしたい気持ちもある。

 けれど、前世で結婚にいい思い出がない分、慎重にいきたいのだ。

 まして、こんなにもオーフェンに似た相手との結婚など、心の傷を抉って広げるようなもの。

「けれど、私の意思を尊重してくださるとも聞きました」
「それは婚約話が持ち上がったばかりの時の話だろう」
「記憶を持たない私にとって、今がその時です」

 きっぱり言い切る美七を見て、紘生はまたしても目を見張る。

「……君、変わったな」
「弟にも言われました」

 弟いわく、以前の美七はおとなしい性格だったようで、あれこれ興味を示しては動き回る今の美七は別人レベルらしい。
 実際、前世の性格が前面に出ているので中らずと雖も遠からずだ。

「そうか。でも、前の君よりずっといい」
「え」

 弟にはちょっと怖いと言われ、両親も戸惑いを見せているので、まさか今の自分をいいと褒められるとは思わず、今度は美七が目を丸くする。

 これは気遣いか、それとも本気なのか。
 驚いた時以外はずっと無表情なのでわかりづらい。
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