嫁いだ以上妻の役目は果たしますが、愛さなくて結構です!~なのに鉄壁外科医は溺愛を容赦しない~
 挙式が始まってから今に至るまで、緊張を見せず平然としていた紘生が、「どうした?」と眼差しで尋ねている。

 我に返った美七は、問題ないと伝えるように笑みを貼りつけた。
 すると、顎に添えられた指がそっと輪郭を撫でる。

 不安を和らげようとするように、優しく。

 美七を見つめるその眼差しは、結納式の時よりもさらに柔らかく、労わりが滲んでいるようにも思える。

(……どういうこと?)

 紘生は、効率重視の利己的な人間だったはず。

 けれど今の彼は、人の心の機微に聡い、思いやりのある人に見える。

(……私、勘違いしていたのかも)

 そう感じると同時に、強張っていた美七の身体から力が抜ける。

(そうよね、彼は命を救うお医者様だもの。私の命を奪うはずがない)

 裏切りによる痛みと絶望に、いつまでも振り回されていては幸せを掴めない。

(ダメね、しっかりしないと)

 オーフェンではなく、紘生と向き合おう。
 いずれ離縁するとしても、今日から始まる結婚生活を意味のあるものにしたいから。

(もう大丈夫)

 微笑すると、紘生が目尻を下げて小さく頷いた。次いで、形のいい唇がゆっくりと迫る。

 正直なところ、オーフェンに似た紘生と形式的にでも口づけることに抵抗があった。
 けれど彼の気遣いを感じてから、それはいつの間にか吹き飛んだようだ。

 美七は穏やかな気持ちで瞳を閉じる。

(私、紘生さんの笑った顔、けっこう好きかも)

 そう感じると同時、唇が重なり、祝福の鐘の音が高らかに響き渡った。 



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