嫁いだ以上妻の役目は果たしますが、愛さなくて結構です!~なのに鉄壁外科医は溺愛を容赦しない~
 ──交通事故に遭ったらしい。が、美七にはその記憶がない。
 それは弟の啓介が言っていた記憶喪失によるものではなく、自分の最期の記憶が事故ではなく処刑だからだ。

 リムレウス王国の処刑場。自分はそこで命を落としたはずだった。
 だが、意識を取り戻したら見知らぬ病院で、今着付けてくれている母が手を握って泣いていたのだ。

『ああっ、美七! 目が覚めてよかった! あなた車に撥ねられたのよ。覚えてる?』

 そんな記憶はまったくなく、そのうえ手を握っている女性が誰なのかもわからなかった。
 弱々しく首を横に振ってみせると母は困惑したが、美七はそれ以上に混乱していた。

 これはどういう状況なのか。
 それに、先ほどから美七と呼ばれているが、自分の名はミレーナだ。
 聖女の血を引く公爵家の長女で、リムレウスの王太子オーフェンの婚約者。

 そして、その婚約者に裏切られ、敵国内通者という冤罪により処刑されて命を終えたはず。

 いったい自分に何が起こっているのか。

 入院中、考えに考えた末、行きついたのが『初代聖女がいた世界への転生』だ。

 初代聖女が異世界から来たというのは有名な話で、その世界では馬車よりも早い乗り物や、離れた場所にいる相手と会話ができるからくりがあると記されていた。
 自分の病室に備えつけられている絵を映す薄い箱型のからくりには、それらしい乗り物や道具がよく映し出されている。

 それに、ミレーナは絶望に見舞われながらも最期の瞬間に願ったのだ。

『もしも生まれ変われるなら、この世界ではない別の世界で幸せになりたい』と。

 だからその願いが叶い、奇跡が起きて、ミレーナは美七として転生した──。

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