嫁いだ以上妻の役目は果たしますが、愛さなくて結構です!~なのに鉄壁外科医は溺愛を容赦しない~
(きっとそういうことなのよね)

 鏡に映る自分の顔を静かに見つめる。

 おそらく、事故で頭を強打したせいで前世の記憶が戻ったのだろう。

 幸いなのは、ミレーナと今の自分の面差しが似ているため、あまり違和感なく馴染めたこと。
 大きく違うのは、毎日編み込んでいた金色ふわふわロングの髪が、サラサラ黒髪ストレートになっているくらいか。

(でも、こっちの方が手入れが楽で気に入ってるのよね。それにこの着物というのも今の私の方が断然よく似合う)

 器用に帯を巻く母にあっちを向けこっちを向けと言われる美七は、上機嫌で指示されるまま従う。

 前世での生活も悪くなかったが、今世の方が断然面白い。

 ただ、問題がいくつか。

 ひとつは、前世覚醒前の美七の記憶がゼロなこと。
 不思議なことに、言語は自然と理解できて、話すことも文字を読むこともできた。
 そういった最低限の知識は残っているのだが、前世とは違うものが多くて、今日まで戸惑うことが多かった。

 箸を使うのも最初は戸惑ったが、身体が覚えているようですぐに使えた。

 他にも、身体が覚えているものはやり始めると自然とできる。

 スマホはちょっと苦労した。
 というか今もよくわかっていないが、このスマホが初代聖女の記録にある、遠くにいる人と会話ができるアイテムなのは間違いない。

(スマホだけじゃく、電子機器はどれもすごいのよね)

 先日行った家電量販店には、まだまだ知らない機器がたくさんあって楽しかったのでまた行きたい。

(というか、以前の美七が仕事をしてなくてよかったわ。絶対に迷惑かけたもの)

 巻き込むのが家族だけで済んだのは不幸中の幸いだろう。

 
< 3 / 35 >

この作品をシェア

pagetop