嫁いだ以上妻の役目は果たしますが、愛さなくて結構です!~なのに鉄壁外科医は溺愛を容赦しない~
 ……といった感じで、生活に関しての不慣れさはそのうちどうにかなるとして、それよりも厄介なのがもうひとつの問題――美七には婚約者がいる、ということだ。

 この事実はつい最近知り、断りたいと両親に交渉したがあえなく惨敗。
 しかもその婚約者が四年間の臨床留学から先日帰国したようで、美七はまったく覚えていないが、予定通り今日、結納式を挙げるのだ。

(着物を着られるのは楽しいけど、結婚は楽しくない。まして今の私にははじめましての相手だし)

 もし覚醒前の記憶が残っていたら受け入れられただろうか。

 ……いや、美七の記憶は関係ないかもしれない。
 前世で婚約者に裏切られたことが、今も美七の心に深い傷を残しているのだ。

 美七としては今も婚約をどうにかして破棄したいが、両親に却下されて以来、いい策を見つけられないままこの日を迎えてしまった。

(……待って。婚約者に直接交渉すればどうにかなるかも?)

 親を説得できないならばと一縷の望みに賭けることにした美七は、鏡の自分を見つめて頷く。

(せっかく得た新しい人生だもの。前世では経験できなかった仕事ややりがいを見つけて、自由な人生を謳歌しないと! そして今度こそ幸せになってみせるわ!)

 ひとり密かに誓い、拳をぎゅっと握った。
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