嫁いだ以上妻の役目は果たしますが、愛さなくて結構です!~なのに鉄壁外科医は溺愛を容赦しない~
 危ういところを助けられた父は、藤沢院長に『一生をかけてこの恩を返します』と深々と頭を下げたそうだ。
 そんな父に院長は『恩なんて感じなくていい』と父の肩に手を添えて頭を上げさせた。

『御社が開発中の医療機器に期待してのことで、うちにもメリットはある。だから頭を上げてくれ』
『ありがとうございます。でも、それでは気が済まない。何かさせてほしいんです』
『そう言われてもな……』

 悩んだ院長は、酒を飲みながらしばらくののちに閃く。

『それなら、うちの堅物息子の嫁として娘さんをくれないか』
『美七を、ですか?』
『この前たまたま整形外科の前で君たち親子に会っただろう? 実はその時直感したんだ。彼女はうちの紘生に合う気がするとな』

 さらに父が聞いたところによると、紘生は学生時代から女っ気がなく恋愛に興味もなさそうで、このままでは結婚できるかもあやしいと心配していたらしい。

 もちろん、美七が嫌じゃなければと意思を尊重してくれたので断ることもできたらしい。
 だが、当時十八歳だった美七は、突然の結婚話に驚きはしたものの、結婚に憧れがあったそうで、若さも手伝ってか『私でよければ』と承諾。

 紘生も異存はないとのことで、婚約関係になった。

 正式な結婚は、美七が大学を出てからという条件付きで。
< 6 / 35 >

この作品をシェア

pagetop