嫁いだ以上妻の役目は果たしますが、愛さなくて結構です!~なのに鉄壁外科医は溺愛を容赦しない~
(それにしても、何度思い出しても腹が立つ!)

 さっさと忘れてしまいたい王太子の姿が、脳内に我が物顔で居座り続けていた時だ。

「ああ、上條くん、早く来たつもりだったが待たせたようで申し訳ない」
「藤沢さん!」

 父が素早く腰を上げ、それに倣う母と同時に美七も席を立ち一礼した。

 どうやらこの柔和な雰囲気の人物が、恩人の藤沢医院長らしい。
 その隣にいる上品な女性が医院長夫人と、そして……。

(……え)

 院長夫妻の後ろに立つ長身の男性の顔を見た美七は、戦慄し、氷漬けにされたかのように固まった。

 自分を裏切った王太子オーフェンにそっくりの男が立っているのだ。

 きりっとした眉に涼しげな奥二重の目元。高い鼻梁と形のいい薄い唇。
 横分けの前髪をサイドにさらりと流したヘアスタイルや髪色は違うが、顔立ちはかなり似ている。

(ま……まさか……彼も転生したの?)

 警戒と緊張で、ごくりと喉が鳴る。
 両親同士が軽い挨拶を交わす中、男性が美七の前に立った。
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