一番星は君ひとりだけ

「…ねえ」


思わず声をかけてしまった。

本能が理性より先に走り出してしまった。

彼女は、はっとしたように前を向いてから、こちらを向いた。


「ごめんね急に、声かけて」

「…」


彼女は何も話さない。
無言で戸惑ったように、キョトンとした顔をしている。正面から見た顔は、可愛らしく、また儚げだった。自分の語彙力の無さに腹が立つほどに。


「この後、時間あるかな…あの…」


声をかけたはいいものの、どうしようとか何も考えてなかった…!ただのナンパ野郎じゃん!アイドル失格!アイドル以前の問題!

情けない自分に毒づいていたら、彼女は怪訝な顔をし始めた。そして、手に持っていた俺のプロマイドに目を落とした。


「ん…?」


首を傾げ始めた。あ、やばい。これバレたかも。


「え…」

「待って、1回外出よ!」


彼女の手にあるプロマイドを戻してから、手首を掴んで、シャイニングショップの横の狭い路地に入った。ここなら誰もいない。


「えっと…あの…気付いてる?」


彼女は目を合わせてくれない。
重大な秘密を知ってしまった…!とばかりに、目を伏せている。


「明星飛貴っていうんだけど…知ってるか…」


乾いた笑い声が出る。
この子からしたら俺は、自分の推しであるわけで。その俺が、目の前にいて、それでナンパしてきた。
嬉しいような悲しいような複雑な気持ちだろうな。


「君は?」

「…」


まともに話してくれない。そりゃそうか。目の前に推しがいる。混乱もするか。




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