アルト、ハロウィンデビューする【アルトレコード】
「いえいえ、こちらこそ。本当にありがとうございます」
 男性も何度も頭を下げてきて、困ってしまう。だけど、勤め先の技術が人を救っただなんて誇らしい。転職して良かった。

「本当に、治療が成功して良かったです」
 私は無理矢理話を戻した。

「ですけど、それで貯金がなくなってしまって。ホログラム参加したくても古い機材しかないので回線を使っての参加ができなかったんですよ。それに、この機材だったら一緒に商店街を歩けますし」
 男性は少し恥ずかし気に、だけど嬉しそうに言った。

「わかります」
 私は頷いた。
 コンテストに参加するだけの人もいるが、お祭り気分を味わいたくて来る人もいる。ずっと病院だった娘に少しでも楽しんでほしかったのだろう。

「沙織、お前もお礼を言って」
「うん。ありがとう、アルト、お姉ちゃん!」
 女の子の笑顔が本当にうれしそうで、私もアルトもまた笑顔になった。

 アルトは電力消費を抑えるために、いったん携帯端末に入った。
 投影装置の電力残量を確認する。残り一パーセント。これでは投影なんて無理そうだ。

 ダメ元でバッテリーを借りられないかと係員に聞いたら、やはり断られた。買いに行っても戻るころには間に合わない。

 やはり参加できないのか。アルト、楽しみにしていたのに。
 だけど。
 私は端末の中のアルトを見る。
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