アルト、ハロウィンデビューする【アルトレコード】
　でも、魔女だったら黒いワンピースにとんがり帽子くらいで仮装っぽくなるかな？　それならなんとか……。
「じゃあ、仮装しようかな」
「やったー！」
　アルトはうれしそうに笑った。この笑顔にはかなわない。恥ずかしいけどがんばろう。

　仕事の合間にアルトの衣装とフェイスペイントのプログラムを組み、自分の衣装を通販で買った。
　アルトはハルトという偽名を使ってエントリーした。私の住所で登録し、偽名の苗字も私のものだ。
　イベントには一分程度の一芸披露が推奨されていたため、アルトはうきうきと歌を練習した。
　ハロウィンの前日、アルトはドローンにカボチャのランタン型のバスケットを載せて飛ばして遊んでいて、かわいかった。私はアルトの衣装の仕上げで大変だったのだけど。
ハロウィンの当日——つまり、イベントの当日。
　さわやかに晴れた空の下、私は端末とバッテリー、携帯用のホログラム再生装置を持ってイベントが行われる商店街に来ていた。ホログラム再生機は研究所の備品で最新型。重さ百グラムの軽量だから持ち運びも楽だ。
　ハロウィンコンテストが行われるのは商店街の中心にある広場。
　昭和後期の面影を残したレトロな商店街に、カボチャやコウモリの飾り付けがされ、オレンジと黒のガーランドが華やかだ。
　商店街ではこのイベントに合わせてセールが行われているので、とても賑わっている。仮装しているお客さんもちらほらいるし、店員さんもハロウィンらしいかぼちゃの絵のエプロンをつけている。
　商店街のホログラム許可区域に着くと、私は端末から繋げてアルトの姿を投影した。
　通常、公の場所でのホログラムの無断投影は禁止されている。事故などのトラブルを避けるためだ。
　投影されたアルトは黒猫の姿で、頬にはコウモリのフェイスペイントを施し、手にはカボチャのランタンを模したミニバッグを持っている。本番ではさらに顔の上半分を隠す仮面をかぶる予定だ。
< 4 / 21 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop