アルト、ハロウィンデビューする【アルトレコード】
「まあ、いろいろ事情はあるでしょうね、どこのご家庭も」
「そうですね」
 私は濁して答えた。女の子からのこれ以上の深堀りをさえぎってくれてありがたい。

「では、また会場で。行こうか、沙織」
 男性は娘に声をかけ、再度の会釈をして離れる。
「うん! またね!」
 女の子は私たちに手を振ってから、急に走り出す。

「あんまり歩きまわるとバッテリーがなくなるよ!」
「わかってる、大丈夫! 早く早く!」
 女の子は元気に答え、父親を先導するようにせかす。

 その背を見送り、アルトは興奮気味に言う。
「ホログラムの参加の人、ほかにもいたね!」
「そうだね」
 私は少し意外に思った。

 ホログラム投影装置はメイン会場にも設置されている。
 普通の人はネット経由で会場のホログラム投影装置を利用するだろう。

 アルトの場合は機密だし、通常の回線の経由を避けるために携帯ホログラム投影装置での参加を決めていた。
 あの親子が携帯ホログラム投影装置を使うのは、この街並みを一緒に歩きたかったからだろうか。

 気持ちはわかる。実際、アルトと一緒に歩くのは楽しい。
 私はときおりバッテリーを確認しつつ、アルトと一緒に歩いた。



 そうしてコンテスト開始時間前には、メイン会場にいた。
 参加者はこちら、という案内に従って歩いて行くと、すでにたくさんの人がいた。

 ほとんどはリアル参加で、ホログラム参加なのに会場に来ているのは私たちとさきほどの親子の二組だけのようだ。だけどまだ彼らの姿は見えない。
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