かわいさの暴力【アルトレコード】
「その豆柴、譲っていただけませんか?」
「えっ!?」
 私の言葉にアルトは目を輝かせ、秤さんは目を丸くした。
「アルトに責任をもって飼うってことを学ばせたいんです」
「……アルトくんに? でも」
 いぶかし気に言う秤さんに、私は慌てて言葉をかぶせる。
「現代のAIのサポート内容は多岐に渡るので、そういう学習も必要だと思うんです!」
「うーん……確かにドローンにAIペットを散歩させてる人を見たことあるけど」
 AI搭載のドローンはいまや各家庭に一台はある。自動操縦のドローンがAIペットの散歩をしている姿はなかなかシュールだ。
「ちゃんと大事にするから!」
 アルトは潤んだ瞳で秤さんを見つめる。
「まるで本当に子どもに頼まれてる気分になるわ」
 秤さんは複雑な顔でアルトを見る。
「私からもお願いします。北斗さんにはちゃんと許可をとりますから!」
 私もアルトの隣で秤さんに頼み込む。
 重なる懇願に、秤さんは大きく息をついた。
「じゃあ、処分せずにとっておくから、備品移動の申請書を出してね。北斗さんの許可があればうちの上司も許可を出すと思うから」
「ありがとう!」
「ありがとうございます!」
 私はアルトと一緒に深々と頭を下げた。
 頭を上げたアルトと目が合う。と、彼は目を輝かせ全身に喜びが震えているようだった。尻尾があったらちぎれんばかりに振っていることだろう。
 控えめに言って、世界最高にかわいい。
 ここまできたらもう暴力だ。かわいさの暴力。
 ああ、北斗さんに怒られそう。
 だけどきっと。
 私はちょっと怒っている北斗さんを想像する。
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