かわいさの暴力【アルトレコード】
 こうしていると、本当に普通の子どもと変わりなく見える。
 だけど、AIだからだろうか、瞳が少し独特だった。メカニカルな模様があるのだけど、それがなんだか美しい。

 研究室に着くと、私は生体認証の確認機(チェッカー)に指を載せる。ピッと音がして扉が開いた。

 中には秤さんがいて、テーブルに置かれたぬいぐるみみたいな小型犬の顔を覗き込んでいる。
 が、私たちに気付いてすぐに姿勢を直してにこっと笑った。

「いらっしゃーい。今ね、新型AIペットのプロトタイプを確認していたの」
 秤さんがにこっと笑って出迎えてくれた。
「プロトタイプ……?」
 アルトが首をかしげるので、私が説明する。

「試験的に作ったもののことよ」
 秤さんが場所を空けてくれたので、アルトは近寄ってAIペットを見つめる。
 見た目はまるで豆柴だ。全体は茶色っぽいが、お腹のあたりは白っぽい毛でおおわれている。耳までふわふわの毛でおおわれていて、黒い目はつぶらだ。

「この子は豆柴ですか?」
「そうなの。かわいいよね」
 秤さんがにっこり笑ってその子を撫でる。

 AIペットの需要は大きい。
 かつては生体販売が普通だったが、時代とともに命を売買するのはいかがなものかという論調が大きくなった。ペットショップが厳しく規制されて以降、AIペットは高性能化とあいまっていっきに普及した。

 命の尊さを学べなくなると危惧した人たちもいるものの、AIペットは糞をすることもないし鳴き声の頻度やボリュームも調節できて都会でも飼いやすい。
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