かわいさの暴力【アルトレコード】
 保護猫、保護犬の譲渡による生体の飼育は今でも積極的に行われているが、AIペットは生体と違って病気にならないし、なんといっても寿命によるお別れがない点が好評で、直せばいつまでも一緒にいられるところを利点に挙げる人が多い。

 画面の中だけで飼うタイプもあるが、やはり実物に触れたい人が多く、義体タイプがたくさん売られている。ロボットタイプなら抜け毛がないから掃除の手間が省けるし、動物アレルギーの人でも飼えるのもメリットだ。

「義体……いいなあ」
 ぽつりとつぶやくアルトに、秤さんが首をかしげる。

 やばいかも。
 私は慌てる。
 義体を羨ましがるなんて、普通のAIだと有り得ないはず。

「わ、わんちゃん、撫でてみていいですか?」
「ええ、もちろん」
 秤さんが頷く。アルトの発言は気にしていないようで、ほっとした。

 豆柴は私を見てかわいらしく首をかしげている。
 頭を撫でるとふりふりと嬉し気に尻尾を振った。

「撫で心地がいい……本物の犬みたい」
「触ったことあるの?」

「小さい頃に、触れ合い動物園で」
「ああ、楽しいよね、あれ」
 秤さんがにっこりと笑う。

 犬は口を開けて舌をべろっと見せた。まるで顔全体で笑っているみたいだ。
「ぼくにももっと見せて」
「どうぞ」
 私が場所を譲ると、アルトはテーブルにかじりつくようにして犬を眺める。
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