溺愛する身代わり姫を帝国王子は、逃さない。
 第7話


「……ひどいなあ、ルアンは」

 私の慌てて逃げた様子に、レイカルド様ぼやき、少し傷ついた顔を浮かべていた。

「まったく、この小娘は」

「まあ、いいけどね」

「我が君、得体の知れない失礼な小娘だから、この件に関しては、やはりよく考えたほうがいいですよ?」

 私に呆れた顔を浮かべているハレット様は、ぼそりと毒づく。

「失礼って……」

「そうでしょう?」

「確かにそうだけど。でもねハレット、この子は大丈夫だよ?」

「ですが」

「だから、処女とかなんて関係なしに、巫女としての必要不可欠な純粋な素質や、充分なほどの光の鼓動、感じることができたから」

 うんうんと頷きながら、レイカルド様はそう言った。

「確かにそうでしょうが」

「それに、ちゃんとした己の考えをもっているみたいだしね」

「ですが、やはり一時でも我が君の相手とするならば、素性のしっかりとした相手ではないといけません」

 そう言ってハレット様は、きつく眉根を寄せてしまう。

「だから、大丈夫だって」

「ですが」

「僕がそう言っているのだから、ハレットはそんな些細なことなんて、気にしなくていいから」

「大切な我が君の相手ですよ。気にしますって」

「何言っているから。ハレット自身が薦めただろう?」

 しつこく言い募ってくるハレット様に、レイカルド様は呆れた声をあげた。

「だ、だから、それは緊急事態でのことですって!」

「緊急事態?」

「そうですよ。言いましたでしょう? 上層部の厳格な意向にことごとく逆らい、自分で内なる邪神の欠片を抑制しようとした我が君の窮地。それをどうにかしなければと、考えた末のことでして」

「上層部の意向だって? 冗談じゃない。あんな思惑のある娘なんて、僕は嫌だよ。あとあと面倒だからね」

 レイカルド様は、顔を苦々しく歪めて毒づく。

「確かに、そうですが」

「だからね、この子ってどう見ても通りすがりの巫女見習いだろう? ならば本当に都合がいいじゃないか」

「そうですが」

「僕もこの子には見覚えがないし。それにきっと下手に手がついてないだろうしね」

「ですが」

「確かに僕も狂うのは嫌だから、利用させて貰うよ」

 言い募るレイカルド様は、じっとハレット様の顔を見据えている。

「ですが我が君、本当に素性を知らないわけですから、もう少し慎重に考えたほうが、よろしいのではないのですか?」

ハレット様は、神妙な顔で毒づいてしまう。

「ハレットは、本当にしつこいよねえ。だからそれは大丈夫だって、僕がそう言っているだろう?」

「ですが」

「ハレット、珍しく女に対して嫌悪を感じない、ルアンの裏表のないさっぱりとした気性。僕はけっこう気に入っている」

「我が君……」

「だからね、素性がどうあれ、僕はルアンを手元におきたいと思っているよ」

 そう言ってレイカルド様は、神妙な顔で二人の様子を窺っている私へちらりと視線を送った。

「それは、我が君が何者か知らない小娘だからですよ、きっと」

「それは、あるかもね」

「それに、十七歳ながらもこの幼さでしたら、オウル様に少女趣味とか、絶対言われちゃいますよ?」

 怪訝そうに二人の様子を交互に見ている、私の年齢よりもずっと幼い顔立ち。

 ちらりと尻目で見ながらハレット様は、そう言って嘲笑する。

「確かに、それはそうだけどね。それでも僕は、この子がいいけど?」

 レイカルド様の意見は変わらず、ハレット様の顔をじっと見据えて訴えかけた。
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