溺愛する身代わり姫を帝国王子は、逃さない。
 第8話



「まったく……、まあいいでしょう」

仕方ないなあと、口の端を歪めながら、ハレット様は毒づいた。

「心配性だなあ、ハレットは」

「そりゃあ、とても手間がかかっておりますからね、私の大切な我が君は」

「手間がかかって、悪かったね。それじゃあ、決まりだよね」

 少し不服そうに、レイカルド様はぼやいたが、ハレット様とともに、私と視線を送った。

「わかりました。それでいいでしょう」

「そうゆうこと。さてルアン、あとで迎えを寄こすから、ここで待っていろよ」

「いいです! 私は離宮へ帰ります」

 命令口調の傲慢なレイカルド様の言葉に、私は我に返り大きく首を振った。

「それは構わないけど。でもね、僕としてはルアンを引き取るつもりだけど?」

「だ、だから」

「だって、ルアンは可愛いし、いじめがいがありそうだからね」

 ふふっと、レイカルド様は底意地の悪い笑みを浮かべた。

「な、何を言っているから!」

「何をって……、本当のことだよ?」

「さっきの騒動で、もう用事はすんだのでしょう? だから」

「すんでないよ」

「すんでいますって。だから私のことは、放っておいてください!」

 レイカルド様の言葉に、怒りがこみあげ、私は声を荒げ、再度目を吊りあげた。

「ルアンは、放っておかないよ」

「い、嫌です!」

「そう拒否するなって。何だかつれなすぎるよ、ルアンは」

 私の言動に、レイカルド様は苛立ちを滲ませた瞳をあらわにした。

「こんな失礼な小娘で、本当にいいのですか? 我が君は」

「いいよ、ルアンで」

「そうですか。そこまで気に入っているのでしたら、いいでしょう」

「だろう?」

「十七歳なのだし、きっと我が君のいい慰めものになることでしょうから」

 ハレット様は、やれやれと嘆息をこぼしながらも、レイカルド様とよく似たとても底意地の悪い笑みを浮かべている。

「も、もうっ! また勝手に、何を言っているから!」

 私は、またしても自分が否応なしに決まっていく、二人の傲慢な会話に憤慨した。

「だからルアン、もう諦めろって」

「あ、諦めろって、言われても……」

「ハレット、さて行こうか」

 どうあれきく耳もつつもりはない往生際の悪い私から顔を逸らしたレイカルド様は、ハレット様を見据えた。

「そうですね」

「ねえっ、少女趣味じゃあまずいのでしょう? ならば私はやめたほうがいいのでは? そうでしょう?」

 このままでは何だか危ういと察知し、私は慌てだした。

 二人の会話に口を挟んで、ハレット様をじっと見つめる。

「それは確かに、大切な我が君の相手として、一理ありますがね」

「ハレット、何度も言うけど、それは別に構わないって。だからルアン、覚悟してここで待っていて」

 レイカルド様は、二人の言葉に引くことはなかった。

そう力強く言って、レイカルド様は私を優しく睨んだ。


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