執愛懐妊婚~内緒でママになるはずが、次期社長は滾る愛で囲い娶る~
 

 少し前までの自分ならメソメソと泣きながら落ち込んでいただろう。
 だが、強い気持ちが生まれているのは、きっとこの子のおかげだ。

 嬉しくなって頬を緩めていると、受付で雫の名前が呼ばれた。
 会計を済ませていると、看護師が慌てた様子で飛んでくる。

「井熊さん、渡し忘れていたんだけど。出産までの説明書はこれね」
「はい、ありがとうございます」

 書類を受け取り、病院を出ようとした。まさに、そのときだ。

「雫ちゃん?」

 聞き覚えのある声に、身体がビクッと震える。振り返らなくても、その声の主が誰なのかがわかった。
 だからこそ、すぐに返事ができない。

 どうして彼が産婦人科にいるのか。そんな疑問が脳裏をグルグルと渦巻き、ここから逃げ出してしまいたくなる。
 だが、ここで逃げたとしても、相手には雫がこの病院にいたと知られてしまった。

 逃げる前に口止めしなければならない。そう思い直し、渋々と振り返る。

 そこには、青ざめた様子で雫をジッと見つめている真太が立っていた。
 目を見開いたまま固まっている真太を見て、顔を強ばらせながらどうしてここにいるのかと尋ねる。
< 106 / 158 >

この作品をシェア

pagetop