執愛懐妊婚~内緒でママになるはずが、次期社長は滾る愛で囲い娶る~
 

 人がごった返す改札近くで、キスをしろと言い出したのだ。

 さすがにそれは無理だと拒否したのだけれど、彼は腰を屈めて雫の顔を覗き込んできた。
 そのときの幹太の表情は真剣そのものだった。

 これは彼の願いを叶えない限り、仕事には行きそうにもない。そう思った雫は、彼に借りていたパーカーのファスナーを下ろして脱ぐと、彼の頭にかけた。

 それで人の視線を遮ったあと、驚きのあまり目を瞬かせていた幹太の唇にキスをしたのだ。

 もちろん幹太は上機嫌になったが、雫は顔から火が出るほど恥ずかしかった。

 幹太は基本紳士だ。雫だけでなく周りの人間は口を揃えて言うだろう。
 だが、彼は結構意地悪なところがある。

 それを本人に指摘すると「そう? でも、雫だけにだよ。だって、俺は雫の色々な顔を見たいから」などと開き直る始末だった。

 小さく息を吐き出しながら、腕時計に視線を落とす。そろそろ昼休憩の時間だ。

 休憩に入る前には、カートにある本をすべて戻してしまいたい。
 歩調を少し早めながらカートを押し、人の気配があまりない奥の本棚にやってきた。
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