先生、手をつないで【アルトレコード】
「アンモナイトの化石、ここに……」
「本当にそこなの?」
 一緒に来た母親がたずねる。

「うん。いちばんやすかったの。ぼくのおこづかいで買えるの」
 その子は必死に母親にそう言っている。
「がんばって貯金したもんね」
「うん!」
 その子はさらにワゴンの中を探している。

 もしかして……。

「先生……」
 僕が小声で言うと、先生はそっとその場を離れた。
 それからワゴンのほうを見て僕に話しかける。

「アルト、もしかしたらこのアンモナイト、あの子が買おうとしていた物かもしれない」
「うん……ぼくも気が付いた」
 どうしよう。ぼくが買ってもらったら、なくなっちゃうよね。

「アルト……」
 先生が迷うようにぼくを呼ぶ。
 先生は、あの子にこれを譲った方がいいって思ってるのかな。
 どうしよう。

 ぼくはふと、図鑑の前に読んだ物語を思い出した。
 主人公が誕生日のお母さんのためにケーキを買いにお店に行った。ケーキは最後の一個で、買えて良かった、ってなったとき、老夫婦がお店に来た。おじいさんはおばあさんの誕生日をお祝いするためにケーキが欲しいって言う。

 お店の人は、もう売り切れちゃって、って言って、おじいさんたちはすごいがっかりしてた。
 だから主人公は、自分が買ったケーキをあげた。
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