その抱擁は、まだ知らない愛のかたち
タクシーを降りた瞬間、麻里子は息をのんだ。
マンションのエントランス前、そこに、貴之が立っていた。
夜の闇に溶け込むような黒いスーツ。
静かに佇むその姿から、ただならぬ気配が滲んでいた。
彼女が一歩踏み出そうとした瞬間、貴之がゆっくりと歩み寄ってくる。
「……こんな時間まで、どこに行ってた?」
抑えきれない怒りが、底冷えするような低音となって響いた。
その声音に、麻里子の背筋がぞくりと凍る。
「……あの、えっと……」
言葉が喉の奥に貼りつき、何も出てこない。
次の瞬間、貴之が麻里子の手を強く握った。
驚くほど冷たいその手が、彼の内に渦巻く感情の温度を語っていた。
「来い」
短く、それだけ告げると、貴之は振り返りもせず自分のマンションへと歩き出す。
麻里子は抵抗する間もなく、その手に引かれるまま、ただ従うしかなかった。
夜風の中、二人をつなぐのは無言と、痛いほどの緊張感。
握られた手の強さに、指一本動かすことすらできなかった。
その手が語っていたのは、怒りでも不安でもない。
もっと根深く、逃げ場のない「執着」の温度だった。
ドアが閉まる音がした次の瞬間、貴之は麻里子をベッドへ押し倒した。
シャツの襟元をつかんで引き寄せ、怒りと絶望のこもった視線で睨みつける。
その眼差しには、激情という言葉すら生ぬるい、張り詰めた感情のすべてが宿っていた。
「……俺には、言えないことを……あいつには言えるのか?」
吐き捨てるような声。
けれどその奥に、滲むような哀しみがあった。
「カフェのガラス越しに見たんだ……」
貴之の手が、ゆっくりと麻里子の頬に触れる。
だが、その指先は熱く、かすかに震えていた。
「……お前が俺に、一度も見せたことのない顔をしてた」
「……っ」
「笑ってた。安心したように、優しい目をして……まるで、昔から知ってるみたいな顔で」
その手が、麻里子の髪をゆっくり撫でて、やがて首筋を這うように下りていく。
「短期間で、あんなふうにはならない」
貴之の唇が、首筋に押し当てられる。
甘くもなく、柔らかくもなく……所有を刻むような口づけ。
「そんなに親密なんだな。俺とは違って」
彼の声は、低く濁っていた。
「だから、俺ともう会いたくなかったんだろう? ……あの男のせいで」
押し殺したような声とともに、麻里子のブラウスのボタンがひとつずつ、確かな手つきで外されていく。
震える麻里子の肩に、彼の熱が覆いかぶさるようにのしかかる。
「お前が……俺を裏切った」
その言葉とともに、唇が胸元を乱暴に這う。
愛撫ではない。執着そのものだった。
自分の痕跡を刻みつけるように、貴之は麻里子をなぞる。
「俺だけのものだったのに……」
感情の波が堰を切ったように溢れ出す。
貴之の動きは激しさを増し、まるで麻里子のすべてを確かめるように、何度も深く入り込んでくる。
「お前が……他の男に抱かれたなんて、信じたくない……でも」
耳元に落ちたその言葉に、麻里子の喉がきゅっと詰まる。
「もう俺だけの麻里子じゃないのかと思ったら……どうしていいかわからなかった」
動きが止まる。
荒く息を吐きながら、貴之は麻里子を抱き締める。
その腕の中に、怒りと喪失の色が混じっていた。
「全部壊してでも……お前を戻したかった。俺の元に……お前を」
マンションのエントランス前、そこに、貴之が立っていた。
夜の闇に溶け込むような黒いスーツ。
静かに佇むその姿から、ただならぬ気配が滲んでいた。
彼女が一歩踏み出そうとした瞬間、貴之がゆっくりと歩み寄ってくる。
「……こんな時間まで、どこに行ってた?」
抑えきれない怒りが、底冷えするような低音となって響いた。
その声音に、麻里子の背筋がぞくりと凍る。
「……あの、えっと……」
言葉が喉の奥に貼りつき、何も出てこない。
次の瞬間、貴之が麻里子の手を強く握った。
驚くほど冷たいその手が、彼の内に渦巻く感情の温度を語っていた。
「来い」
短く、それだけ告げると、貴之は振り返りもせず自分のマンションへと歩き出す。
麻里子は抵抗する間もなく、その手に引かれるまま、ただ従うしかなかった。
夜風の中、二人をつなぐのは無言と、痛いほどの緊張感。
握られた手の強さに、指一本動かすことすらできなかった。
その手が語っていたのは、怒りでも不安でもない。
もっと根深く、逃げ場のない「執着」の温度だった。
ドアが閉まる音がした次の瞬間、貴之は麻里子をベッドへ押し倒した。
シャツの襟元をつかんで引き寄せ、怒りと絶望のこもった視線で睨みつける。
その眼差しには、激情という言葉すら生ぬるい、張り詰めた感情のすべてが宿っていた。
「……俺には、言えないことを……あいつには言えるのか?」
吐き捨てるような声。
けれどその奥に、滲むような哀しみがあった。
「カフェのガラス越しに見たんだ……」
貴之の手が、ゆっくりと麻里子の頬に触れる。
だが、その指先は熱く、かすかに震えていた。
「……お前が俺に、一度も見せたことのない顔をしてた」
「……っ」
「笑ってた。安心したように、優しい目をして……まるで、昔から知ってるみたいな顔で」
その手が、麻里子の髪をゆっくり撫でて、やがて首筋を這うように下りていく。
「短期間で、あんなふうにはならない」
貴之の唇が、首筋に押し当てられる。
甘くもなく、柔らかくもなく……所有を刻むような口づけ。
「そんなに親密なんだな。俺とは違って」
彼の声は、低く濁っていた。
「だから、俺ともう会いたくなかったんだろう? ……あの男のせいで」
押し殺したような声とともに、麻里子のブラウスのボタンがひとつずつ、確かな手つきで外されていく。
震える麻里子の肩に、彼の熱が覆いかぶさるようにのしかかる。
「お前が……俺を裏切った」
その言葉とともに、唇が胸元を乱暴に這う。
愛撫ではない。執着そのものだった。
自分の痕跡を刻みつけるように、貴之は麻里子をなぞる。
「俺だけのものだったのに……」
感情の波が堰を切ったように溢れ出す。
貴之の動きは激しさを増し、まるで麻里子のすべてを確かめるように、何度も深く入り込んでくる。
「お前が……他の男に抱かれたなんて、信じたくない……でも」
耳元に落ちたその言葉に、麻里子の喉がきゅっと詰まる。
「もう俺だけの麻里子じゃないのかと思ったら……どうしていいかわからなかった」
動きが止まる。
荒く息を吐きながら、貴之は麻里子を抱き締める。
その腕の中に、怒りと喪失の色が混じっていた。
「全部壊してでも……お前を戻したかった。俺の元に……お前を」