その抱擁は、まだ知らない愛のかたち
朝の光が、カーテン越しにやわらかく差し込んでいた。
麻里子は、シーツの中で小さく息を吐く。

背中に感じるぬくもり。
昨夜、愛された痕跡が、体の奥に残っている。
それだけで、胸の奥がじんわりと熱くなる。

「……抱いて、貴之。いっぱい愛して」
あのとき、確かに自分はそう言った。

怖かった。でも、求めた。
愛されることを、選んだ。
それが、初めて“女として生きる”ことだったのかもしれない。




「……麻里子」
背中から、低く囁くような声。

振り返ると、貴之がいた。
眠たげな目で、ただまっすぐに自分を見ている。

そのまなざしに、支配ではない、深い献身の気配が滲んでいた。

貴之は思っていた。
彼女を手に入れたい、閉じ込めたい。
そう願っていたはずだった。

けれど、
昨夜、名前を呼び捨てにされた瞬間、すべてが変わった。

彼女に求められることが、
それだけで、自分の存在理由になっていた。

「……逃がさないよ」
小さくそう呟く。

「……なに?」
麻里子が不思議そうに瞬く。

「いや。……こうしていたいだけだ」
彼女の髪に唇を落とす。
甘い香りに、また溺れそうになる。

征服ではない。
それはもう、願いを超えた愛だった。

麻里子は、そっと目を閉じる。
彼の腕の中で、ただ静かに息をする。

夜は明けた。
でも、ふたりの間には、まだ余韻が残っていた。

この朝を、忘れたくない。

それだけが、今の本音だった。



< 118 / 127 >

この作品をシェア

pagetop