その抱擁は、まだ知らない愛のかたち
貴之はふと立ち上がり、書斎へと消えた。
数分後、戻ってきた彼の手には、一枚の紙と、小さなベルベットの箱があった。

「……麻里子」

彼は真剣なまなざしのまま、ダイニングテーブルに紙を広げる。
それは、婚姻届だった。

「これに、記入して」

麻里子は目を見開いた。

「え……?」

驚きに言葉を失いながら、視線を落とす。
すでに証人欄には署名が入っていた。見慣れた名前がそこにあった。

「……お兄ちゃん?」

「うん。太郎さんにお願いした。すでに話は通してある」

貴之はそう言って、そっと小さな箱を開けた。
中には、シンプルだけど上品な、プラチナの指輪。

「ずっと前から、用意してたんだ。君の心が決まるその瞬間を、ずっと信じて、待ってた」

麻里子の胸に、熱いものがじわりと広がっていく。

彼はずっと本気だった。冗談でも、勢いでもない。
未来を、ともに歩む覚悟で、彼女に差し出してくれている。

「……本当に、いいの?」

「いいも何も。俺はずっと、そうしたかった。ようやく今、それを言葉にしてくれたんだから、逃がすつもりはないよ」

指先が震えながら、麻里子はそっと婚姻届を手に取った。

そして、ペンを握る。
涙で滲みそうになる視界の中、彼の姓の隣に、自分の名前をそっと書き添えた。

貴之は、そっと箱の中から指輪を取り出した。

その手はいつになく慎重で、けれど揺るぎない確信に満ちていた。

麻里子の左手をとり、その薬指に、ゆっくりと指輪をはめる。

ぴたりと収まったそれを見つめながら、

「麻里子……愛してる」

静かに、けれど確かな熱を込めて、貴之は言った。

「この先、何があっても、俺は麻里子の味方でい続ける。守るし、離さない。何があっても、ずっとそばにいる」

麻里子の瞳が、潤む。

貴之は、その手を包み込むように握り、さらに言葉を重ねた。

「俺は誓う。君の人生が、ただの日常で終わることがないように。ずっと、君が俺との人生のヒロインでいられるように…極上のラブストーリーを、この人生で君に贈る」

麻里子は、もう言葉も出せなかった。

ぽろぽろと涙がこぼれ、嗚咽が混じる。
胸の奥に張り詰めていたものが、すべて溶けて流れていく。

「……貴之さん……」

たまらず、麻里子は彼の胸に飛び込んだ。

何も言わず、ただ、ぎゅっと抱きしめる。
貴之もまた、何も聞かず、黙ってその肩を抱きしめ返した。

あたたかな腕の中で、麻里子はただ泣いた。
嬉しくて、愛しくて、ずっと求めていた居場所に、ようやくたどり着けた気がした。

もう、何も恐れることはない。
ここにいる。それだけで、すべてが満ちていた。
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