その抱擁は、まだ知らない愛のかたち
上司に私の秘密(溺愛小説の愛読書)を知られました
貴之は事務所を出た足でジムに寄り、たっぷりと汗を流した。
ストレスや疲れと一緒に、体の奥に溜まった重いものまで絞り出すように、黙々と身体を動かす。
シャワーで汗を洗い流すと、気分が少し軽くなった。
帰宅後、スーツから部屋着に着替え、ひと息ついたとたんに、ふと麻里子の顔が浮かぶ。
—萌ちゃんと、楽しく過ごしているんだろうか。
あの子の笑い声に、あいつもつられて笑ってるのかもしれない。
今頃、美味い飯でも食ってるのか。…なんだか、会いたくなってきた。
開け放した窓からは、夏の夜特有の生ぬるい風が流れ込む。
夜の帳に紛れるように、どこかから花火の音がかすかに聞こえてきた。
ビールでも飲もうか、そんな気分になって冷蔵庫を開けると、飲みたかった種類が切れていることに気づく。
「……ないのか」
小さくつぶやきながら、無意識に視線は玄関の方へと向いていた。
外に出るには億劫な夜でも、彼女のことを考え始めたら、どこか落ち着かなくなる。
財布とスマートフォンを掴んで、玄関の扉を開けた。
生ぬるい夜風が、ふわりと肌をなでる。
—本当は、ビールが欲しいんじゃない。
あの子がいない夜の、静けさを埋めたかっただけかもしれない。
コンビニで適当にビールとつまみを選んで、貴之はマンションへと戻った。
重くもない紙袋を手に提げながら、足取りはどこかゆるやかだ。
家に着いても、すぐには部屋に戻る気になれなかった。
ふと視線を横に向ける。
隣のマンション—麻里子が暮らす部屋の建物が、夜の静けさの中に凛として立っている。
「……会いたいな」
その言葉は声にならず、胸の奥で熱を帯びてくすぶっていた。
気づけば、足がそちらへと向かっていた。
見上げたその窓に、やわらかな灯りがともっているのが見えた瞬間、貴之の心臓が跳ねる。
—いる。麻里子が、あの部屋に。
日常の中に差し込んだ小さな奇跡のような光景に、胸の奥がじわりと熱くなる。
会いたいという思いが、興奮となって全身を駆け巡る。
ためらう理由は、もうどこにもなかった。
ビールとつまみの入った袋を片手に、貴之は自然とその部屋へと歩き出していた。
階段を上る音さえも、心の高鳴りを反映するように早まっていく。
—今夜、少しだけでいい。
顔が見たい。声が聞きたい。
できれば、隣に座って、同じ時間を過ごせたら—
そんな想いを抱きながら、貴之は麻里子の部屋の前に立った。
ストレスや疲れと一緒に、体の奥に溜まった重いものまで絞り出すように、黙々と身体を動かす。
シャワーで汗を洗い流すと、気分が少し軽くなった。
帰宅後、スーツから部屋着に着替え、ひと息ついたとたんに、ふと麻里子の顔が浮かぶ。
—萌ちゃんと、楽しく過ごしているんだろうか。
あの子の笑い声に、あいつもつられて笑ってるのかもしれない。
今頃、美味い飯でも食ってるのか。…なんだか、会いたくなってきた。
開け放した窓からは、夏の夜特有の生ぬるい風が流れ込む。
夜の帳に紛れるように、どこかから花火の音がかすかに聞こえてきた。
ビールでも飲もうか、そんな気分になって冷蔵庫を開けると、飲みたかった種類が切れていることに気づく。
「……ないのか」
小さくつぶやきながら、無意識に視線は玄関の方へと向いていた。
外に出るには億劫な夜でも、彼女のことを考え始めたら、どこか落ち着かなくなる。
財布とスマートフォンを掴んで、玄関の扉を開けた。
生ぬるい夜風が、ふわりと肌をなでる。
—本当は、ビールが欲しいんじゃない。
あの子がいない夜の、静けさを埋めたかっただけかもしれない。
コンビニで適当にビールとつまみを選んで、貴之はマンションへと戻った。
重くもない紙袋を手に提げながら、足取りはどこかゆるやかだ。
家に着いても、すぐには部屋に戻る気になれなかった。
ふと視線を横に向ける。
隣のマンション—麻里子が暮らす部屋の建物が、夜の静けさの中に凛として立っている。
「……会いたいな」
その言葉は声にならず、胸の奥で熱を帯びてくすぶっていた。
気づけば、足がそちらへと向かっていた。
見上げたその窓に、やわらかな灯りがともっているのが見えた瞬間、貴之の心臓が跳ねる。
—いる。麻里子が、あの部屋に。
日常の中に差し込んだ小さな奇跡のような光景に、胸の奥がじわりと熱くなる。
会いたいという思いが、興奮となって全身を駆け巡る。
ためらう理由は、もうどこにもなかった。
ビールとつまみの入った袋を片手に、貴之は自然とその部屋へと歩き出していた。
階段を上る音さえも、心の高鳴りを反映するように早まっていく。
—今夜、少しだけでいい。
顔が見たい。声が聞きたい。
できれば、隣に座って、同じ時間を過ごせたら—
そんな想いを抱きながら、貴之は麻里子の部屋の前に立った。