その抱擁は、まだ知らない愛のかたち
リビングルームに入った貴之は、ローテーブルの上に整えられた晩酌の支度を見て、ふと足を止めた。
「……ちょうどいいタイミングだったかな?」
一人分の小皿やグラス、彩りよく並べられたおつまみが、どこか愛らしく見える。
「はい。そろそろ始めようと思っていたところでした」
麻里子が微笑みながら答える。
「夕食は、食べてこなかったのか?」
「萌ちゃんに誘われたんですけど……今夜はもともと、豪華絢爛・家飲みナイトって決めていたので、お断りしちゃいました」
くすっと笑う麻里子に、貴之も口元を緩める。
「何か、特別な日なのか?」
「……そうですね。特別と言えば特別です」
麻里子は少し照れくさそうに目を伏せてから、ふわりと笑みを浮かべる。
「ローン、完済したんです」
「……それは、すごいじゃないか。おめでとう」
「ありがとうございます。それと……明日から夏休みなので、前夜祭も兼ねて」
そう言いながら、麻里子はキッチンから貴之の分の箸置きや小皿を丁寧に運んでくる。
「食べてみたかったお取り寄せを、つい色々注文しちゃって。だから、所長……いえ、貴之さんが一緒に食べられるの、ちょっとラッキーかもしれませんよ?」
はにかむように嬉しそうにそう言った瞬間—
貴之は、ふいに麻里子の腕を取り、そのまま胸の中へと引き寄せた。
「……っ」
驚く間もなく、彼の唇が麻里子の唇を塞ぐ。
優しかったはずのそれは、今度は長く、深く、そしてどこか執拗に。
熱が、じわじわと広がっていく。
思考が追いつかないほどに、感情が揺さぶられる。
「……麻里子。俺のこと、なんて呼ぶ?」
彼の低くかすれた声が、唇の隙間から落ちる。
「……貴之さん……」
息を整えるように、麻里子は震える声でそう答えた。
「……そうだ」
そして、再び貴之の唇が彼女を奪う。
深く、さらに深く。
逃れようとした麻里子の細い肩を、彼の腕が容赦なく抱きしめる。
「敬語は……もう、だめだ」
耳元に囁くように言って、再び舌を絡めるように口づけてくる。
抗うほどに、麻里子の中の何かがゆっくりと溶かされていく。
—優しさと執着が、こんなに同居できるなんて。
貴之の熱に包まれながら、麻里子はただ、目を閉じることしかできなかった。
「今日は……どうしてこっちなんだ?」
ソファに腰を下ろしながら、貴之がふと尋ねる。
麻里子はワイングラスを手にしながら、笑って答えた。
「今日は本当に、ちょっと酔っぱらいたい気分なんです。
ソファで寝落ちしても、ベッドより罪悪感少なくてすむから……明日にも響きにくいですし」
「……そういうところ、ちゃんと考えてるんだな」
貴之は感心したように言いつつも、その視線はつい、麻里子の姿に吸い寄せられていた。
今夜の麻里子は、涼しげなタンクトップにショートパンツというラフな装い。
肩先や鎖骨、太ももまでが遠慮なく露出していて、これまで見たことのない無防備さに、貴之の喉が自然と鳴った。
しかも、ふと前屈みになるたびに、タンクトップの隙間からナイトブラのレースがちらりとのぞく。
淡い布地の奥に感じる、やわらかそうなふくらみ。
それはあまりに無防備で、意図的ではない分だけ、かえって意識させられる。
さらに、ショートパンツから覗く脚線は白くなめらかで、太もものラインまで目に入るたび、理性がかすかに揺れる。
—柔らかそうだ。触れたら、どんな感触なんだろう。
そんな欲望が、喉元まで込み上げる。
けれど、貴之はその思考を必死で押さえ込んだ。
麻里子が無防備なのは、信頼してくれている証だ。
今のこの時間を、壊したくない。
焦らなくてもいい。まだ、ちゃんと手に入れたわけじゃないのだから。
そう言い聞かせながらも、視線はどうしても彼女を追ってしまう。
—この距離、この熱、この空気。
抑えきれなくなるまで、あとどれくらいだろうか。
静かにグラスを傾けながら、貴之の中で何かがじわりと、熱を帯びていくのだった。
「……ちょうどいいタイミングだったかな?」
一人分の小皿やグラス、彩りよく並べられたおつまみが、どこか愛らしく見える。
「はい。そろそろ始めようと思っていたところでした」
麻里子が微笑みながら答える。
「夕食は、食べてこなかったのか?」
「萌ちゃんに誘われたんですけど……今夜はもともと、豪華絢爛・家飲みナイトって決めていたので、お断りしちゃいました」
くすっと笑う麻里子に、貴之も口元を緩める。
「何か、特別な日なのか?」
「……そうですね。特別と言えば特別です」
麻里子は少し照れくさそうに目を伏せてから、ふわりと笑みを浮かべる。
「ローン、完済したんです」
「……それは、すごいじゃないか。おめでとう」
「ありがとうございます。それと……明日から夏休みなので、前夜祭も兼ねて」
そう言いながら、麻里子はキッチンから貴之の分の箸置きや小皿を丁寧に運んでくる。
「食べてみたかったお取り寄せを、つい色々注文しちゃって。だから、所長……いえ、貴之さんが一緒に食べられるの、ちょっとラッキーかもしれませんよ?」
はにかむように嬉しそうにそう言った瞬間—
貴之は、ふいに麻里子の腕を取り、そのまま胸の中へと引き寄せた。
「……っ」
驚く間もなく、彼の唇が麻里子の唇を塞ぐ。
優しかったはずのそれは、今度は長く、深く、そしてどこか執拗に。
熱が、じわじわと広がっていく。
思考が追いつかないほどに、感情が揺さぶられる。
「……麻里子。俺のこと、なんて呼ぶ?」
彼の低くかすれた声が、唇の隙間から落ちる。
「……貴之さん……」
息を整えるように、麻里子は震える声でそう答えた。
「……そうだ」
そして、再び貴之の唇が彼女を奪う。
深く、さらに深く。
逃れようとした麻里子の細い肩を、彼の腕が容赦なく抱きしめる。
「敬語は……もう、だめだ」
耳元に囁くように言って、再び舌を絡めるように口づけてくる。
抗うほどに、麻里子の中の何かがゆっくりと溶かされていく。
—優しさと執着が、こんなに同居できるなんて。
貴之の熱に包まれながら、麻里子はただ、目を閉じることしかできなかった。
「今日は……どうしてこっちなんだ?」
ソファに腰を下ろしながら、貴之がふと尋ねる。
麻里子はワイングラスを手にしながら、笑って答えた。
「今日は本当に、ちょっと酔っぱらいたい気分なんです。
ソファで寝落ちしても、ベッドより罪悪感少なくてすむから……明日にも響きにくいですし」
「……そういうところ、ちゃんと考えてるんだな」
貴之は感心したように言いつつも、その視線はつい、麻里子の姿に吸い寄せられていた。
今夜の麻里子は、涼しげなタンクトップにショートパンツというラフな装い。
肩先や鎖骨、太ももまでが遠慮なく露出していて、これまで見たことのない無防備さに、貴之の喉が自然と鳴った。
しかも、ふと前屈みになるたびに、タンクトップの隙間からナイトブラのレースがちらりとのぞく。
淡い布地の奥に感じる、やわらかそうなふくらみ。
それはあまりに無防備で、意図的ではない分だけ、かえって意識させられる。
さらに、ショートパンツから覗く脚線は白くなめらかで、太もものラインまで目に入るたび、理性がかすかに揺れる。
—柔らかそうだ。触れたら、どんな感触なんだろう。
そんな欲望が、喉元まで込み上げる。
けれど、貴之はその思考を必死で押さえ込んだ。
麻里子が無防備なのは、信頼してくれている証だ。
今のこの時間を、壊したくない。
焦らなくてもいい。まだ、ちゃんと手に入れたわけじゃないのだから。
そう言い聞かせながらも、視線はどうしても彼女を追ってしまう。
—この距離、この熱、この空気。
抑えきれなくなるまで、あとどれくらいだろうか。
静かにグラスを傾けながら、貴之の中で何かがじわりと、熱を帯びていくのだった。