その抱擁は、まだ知らない愛のかたち
貴之は自宅に戻った。

胸の奥に、確かな満足感が広がっている。
麻里子が、自分を求めはじめている—その事実が、心の芯にじんと染み込んでいた。
昨夜も感じたが、今朝の彼女の反応がすべてを決定づけた。

なんて肌だ。
なんて、艶めいた女なんだ—。

麻里子の美しい肢体が脳裏に浮かぶ。
その柔らかな肌、その恥じらいと快楽が混じる表情。
あれに触れられるのは、この世で俺だけ。
あの姿を見られるのも、俺だけだ。

独占欲が、どくんと音を立てて膨らむ。

キッチンでコーヒーを淹れながら、ふと読みかけのラノベを手に取る。
—このヒーロー、やたらプレゼント攻めしてるな。
悪くない。俺も今日は、麻里子の好きそうなものを買ってやろう。

そういや俺も、結構強引だ。
でも、それでいい。引っ張っていくのが俺のやり方だ。

コーヒーを啜りながら、書斎の机の上に視線を移す。
一枚の書類が目に入った。

婚姻届。

俺はラッキーだと思う。
これほどの女が、俺のそばにいてくれる。

休暇中に、麻里子の家族にも会える予定だ。
できれば兄と二人きりで話す機会を作りたい。
そのとき、俺の覚悟をきっちり見せる。
証人への署名を、誠意を込めて頼もう。

そうやって、麻里子を外堀から固めていく。

この休暇のすべての行動が、
これからの人生に麻里子を迎えるための布石になる。

一瞬たりとも、気を抜いていられない。

貴之の目に、静かな闘志が灯った。

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