その抱擁は、まだ知らない愛のかたち
スマホが震えた。
「鍵、落としてないか? ……俺は、もうとっくに待ってる」
貴之さんからだった。
たったそれだけの言葉が、麻里子の胸を静かに揺らす。
(……待ってる)
彼の声が聞こえた気がした。
責めるでも急かすでもない。けれど、優しい確信に満ちた言葉。
テーブルの上、カードキーが視界に入る。
その小さな鍵が、何かを決めてしまう気がして、怖かった。
でも—
(私は、本当は……行きたいんだ)
彼に触れられるたび、心の奥が熱くなる。
怖いけれど、それ以上に、惹かれている。
麻里子はそっとカードキーを握った。
息を吸い、ゆっくりと立ち上がる。
何度も迷って、戸惑って、それでも—
「……行こう」
静かに扉を開け、麻里子は貴之の待つ部屋へと向かった。
「……お邪魔します」
麻里子がおずおずと玄関に足を踏み入れた。
貴之がすぐに顔を出し、少し心配そうに言う。
「何かあったか?」
「ううん。そうじゃないの。ただ、食料をしまっていたら手間取っちゃって……」
「そっか」
貴之は、ほっとしたように微笑んだ。
麻里子の視線が、足元に並べられたスリッパに留まる。
さっきモールで選んでもらったもの。
そこに、ぽんと自分のための居場所が用意されているようで、
くすぐったいような気持ちになりながら、そっと足を入れた。
「……このマンション、外から見るだけだったけど、中もすごいのね」
「何が?」
「コンシェルジュとか、エレベーターとか……高級感があって。
美和子さんのところも、貴之さんのところも、すてきな暮らしをしてるのね」
「真樹のとこは最上階だから、本当にすごいぞ」
貴之は軽く肩をすくめて笑った。
「比べたら、俺の部屋は狭いけど……気に入ってるんだ。便利だし、
何より、都会の中なのに夜が静かで落ち着く。そこがいい」
「……それは、私も思った。とっても静か。落ち着くわ」
貴之は自然に麻里子の手を取り、そのままリビングへと導いていく。
ふと、自分の手を見て恥ずかしそうに目を伏せる麻里子に、
貴之は何も言わずに、ただ指先を少し強く絡めた。
広々としたリビングルーム。
奥には書斎とパントリーもあり、麻里子の部屋よりもずっとゆとりがある。
床から天井まで続く窓の向こうに、10階からの景色が広がっていた。
「……わあ」
窓に近づき、ガラス越しに空を見上げた麻里子が、声を上げる。
「空が、近い気がする……!」
その無邪気な感嘆に、貴之の口元がゆるむ。
「気に入ってもらえて、何より」
麻里子はふと振り返り、笑った。
その笑顔が、さっきまでの不安をすっと吹き払ってくれるようだった。
「鍵、落としてないか? ……俺は、もうとっくに待ってる」
貴之さんからだった。
たったそれだけの言葉が、麻里子の胸を静かに揺らす。
(……待ってる)
彼の声が聞こえた気がした。
責めるでも急かすでもない。けれど、優しい確信に満ちた言葉。
テーブルの上、カードキーが視界に入る。
その小さな鍵が、何かを決めてしまう気がして、怖かった。
でも—
(私は、本当は……行きたいんだ)
彼に触れられるたび、心の奥が熱くなる。
怖いけれど、それ以上に、惹かれている。
麻里子はそっとカードキーを握った。
息を吸い、ゆっくりと立ち上がる。
何度も迷って、戸惑って、それでも—
「……行こう」
静かに扉を開け、麻里子は貴之の待つ部屋へと向かった。
「……お邪魔します」
麻里子がおずおずと玄関に足を踏み入れた。
貴之がすぐに顔を出し、少し心配そうに言う。
「何かあったか?」
「ううん。そうじゃないの。ただ、食料をしまっていたら手間取っちゃって……」
「そっか」
貴之は、ほっとしたように微笑んだ。
麻里子の視線が、足元に並べられたスリッパに留まる。
さっきモールで選んでもらったもの。
そこに、ぽんと自分のための居場所が用意されているようで、
くすぐったいような気持ちになりながら、そっと足を入れた。
「……このマンション、外から見るだけだったけど、中もすごいのね」
「何が?」
「コンシェルジュとか、エレベーターとか……高級感があって。
美和子さんのところも、貴之さんのところも、すてきな暮らしをしてるのね」
「真樹のとこは最上階だから、本当にすごいぞ」
貴之は軽く肩をすくめて笑った。
「比べたら、俺の部屋は狭いけど……気に入ってるんだ。便利だし、
何より、都会の中なのに夜が静かで落ち着く。そこがいい」
「……それは、私も思った。とっても静か。落ち着くわ」
貴之は自然に麻里子の手を取り、そのままリビングへと導いていく。
ふと、自分の手を見て恥ずかしそうに目を伏せる麻里子に、
貴之は何も言わずに、ただ指先を少し強く絡めた。
広々としたリビングルーム。
奥には書斎とパントリーもあり、麻里子の部屋よりもずっとゆとりがある。
床から天井まで続く窓の向こうに、10階からの景色が広がっていた。
「……わあ」
窓に近づき、ガラス越しに空を見上げた麻里子が、声を上げる。
「空が、近い気がする……!」
その無邪気な感嘆に、貴之の口元がゆるむ。
「気に入ってもらえて、何より」
麻里子はふと振り返り、笑った。
その笑顔が、さっきまでの不安をすっと吹き払ってくれるようだった。