その抱擁は、まだ知らない愛のかたち
日曜日はファミリーデー
麻里子は、いつもより早く目を覚ました。
今日は特別な朝だ。もうすぐ、兄と甥っ子がやって来る。
久しぶりの再会に、胸が高鳴る。
ふたりは普段アメリカで暮らしていて、なかなか会えない。だからこそ、今日の朝食には心を込めた。日本の味が恋しくなっているだろうと、出汁を丁寧にとり、焼き魚や卵焼き、味噌汁など、和食を中心に用意した。
兄の妻・香りさんは、二人目の赤ちゃんを出産したばかりで、今は鎌倉の実家に里帰り中。だから今日は彼女と姪の双葉には会えない。でも、あの可愛い甥っ子に会えるだけで、麻里子の気持ちはふわふわと弾んでいた。
そういえば—
貴之さんに、今日の予定を伝えそびれていたことを思い出す。
まあ、あとで連絡すればいいだろう。今日はまず、甥っ子との時間を楽しもう。
ピンポーン—
玄関のチャイムが鳴った。
麻里子はエプロンのまま駆け寄り、ドアを開ける。
「麻里ちゃんっ!」
元気いっぱいの声とともに、小さな体が勢いよく飛び込んでくる。
甥っ子の翔が、満面の笑みで麻里子に抱きついた。
「翔ちゃん、お兄ちゃん……!おはよう、いらっしゃい!」
麻里子は翔をギュッと抱きしめた。
少し背が伸びて、たくましくなった翔の成長が、胸にじんと沁みる。
「さあ、朝ごはんできてるよ。たくさん食べてね。今日は遊園地、楽しみだもんね」
翔の笑顔に、麻里子の心もぱっと花が咲いたように明るくなる。
幸せな一日が、静かに、けれど確かに始まろうとしていた。
朝の光が、ダイニングテーブルの上をやわらかく照らしていた。
湯気を立てる味噌汁の香りと、焼き魚の香ばしさが部屋に広がる。
「でね、こないだ、学校でみんなでお芝居したんだよ!」
翔が箸を動かしながら、夢中になって話す。
「ぼく、ナレーションの役だったの。ちゃんと全部覚えて、声も大きく出せたんだよ」
「すごいじゃない。翔ちゃん、説明もとっても上手になったね」
麻里子はにこやかに頷きながら、心の中で感心していた。
ついこの前まで人見知り気味だったのに、今ではこんなに自信を持って話せるなんて。
成長の早さに、胸がじんわりとあたたかくなる。
そのとき、
――ピンポーン
玄関のチャイムが鳴った。
翔がちょうど、熱を込めて続きを話し出そうとしていたので、麻里子は一瞬戸惑った。
「……出ようか?」
麻里子が立ちかけると、太郎が軽く手を挙げて立ち上がった。
「いいよ、俺が出るよ。翔、話の続きはあとでな」
「うん!」翔がにこっと笑う。
太郎が玄関のドアを開けると、そこにはスーツ姿の男性が立っていた。
端整な顔立ちに、静かな眼差し。背が高く、控えめながらも風格のある佇まい。
「こんにちは。鈴木貴之と申します。麻里子さんはいらっしゃいますか?」
太郎は、一瞬だけ警戒するようにその男の顔を見つめた。
妹を訪ねてくる男に、自然と兄の目が厳しくなる。
「……太郎です。麻里子の兄です」
短く名乗ると、太郎は彼を玄関に招き入れた。
「妹がお世話になってます。どういったご関係で?」
「麻里子さんの上司です。ですが今日は、仕事ではなく……少しお話ができればと」
貴之の落ち着いた声と礼儀正しい態度に、太郎の警戒心がやや和らぐ。
ただ、兄としての本能が完全に納得するには、まだ時間が必要そうだった。
「まあ、上がってください。今ちょうど朝ごはん中ですけど、妹を呼びます」
ダイニングに戻った太郎は、麻里子に目をやった。
「麻里子。玄関に……鈴木さんって人が来てる。上司らしいけど」
「えっ……!」
麻里子の胸が、ふいに高鳴った。
まさか、今日来てくれるなんて思っていなかった。
心のどこかで、連絡しなかったことを気にしていたからこそ、驚きと嬉しさが一気に押し寄せる。
慌てて立ち上がりながら、麻里子は胸元を整え、そっと深呼吸をした。
彼に、この幸せな朝の光景を見せるのが、少しだけ誇らしくも思えた。
今日は特別な朝だ。もうすぐ、兄と甥っ子がやって来る。
久しぶりの再会に、胸が高鳴る。
ふたりは普段アメリカで暮らしていて、なかなか会えない。だからこそ、今日の朝食には心を込めた。日本の味が恋しくなっているだろうと、出汁を丁寧にとり、焼き魚や卵焼き、味噌汁など、和食を中心に用意した。
兄の妻・香りさんは、二人目の赤ちゃんを出産したばかりで、今は鎌倉の実家に里帰り中。だから今日は彼女と姪の双葉には会えない。でも、あの可愛い甥っ子に会えるだけで、麻里子の気持ちはふわふわと弾んでいた。
そういえば—
貴之さんに、今日の予定を伝えそびれていたことを思い出す。
まあ、あとで連絡すればいいだろう。今日はまず、甥っ子との時間を楽しもう。
ピンポーン—
玄関のチャイムが鳴った。
麻里子はエプロンのまま駆け寄り、ドアを開ける。
「麻里ちゃんっ!」
元気いっぱいの声とともに、小さな体が勢いよく飛び込んでくる。
甥っ子の翔が、満面の笑みで麻里子に抱きついた。
「翔ちゃん、お兄ちゃん……!おはよう、いらっしゃい!」
麻里子は翔をギュッと抱きしめた。
少し背が伸びて、たくましくなった翔の成長が、胸にじんと沁みる。
「さあ、朝ごはんできてるよ。たくさん食べてね。今日は遊園地、楽しみだもんね」
翔の笑顔に、麻里子の心もぱっと花が咲いたように明るくなる。
幸せな一日が、静かに、けれど確かに始まろうとしていた。
朝の光が、ダイニングテーブルの上をやわらかく照らしていた。
湯気を立てる味噌汁の香りと、焼き魚の香ばしさが部屋に広がる。
「でね、こないだ、学校でみんなでお芝居したんだよ!」
翔が箸を動かしながら、夢中になって話す。
「ぼく、ナレーションの役だったの。ちゃんと全部覚えて、声も大きく出せたんだよ」
「すごいじゃない。翔ちゃん、説明もとっても上手になったね」
麻里子はにこやかに頷きながら、心の中で感心していた。
ついこの前まで人見知り気味だったのに、今ではこんなに自信を持って話せるなんて。
成長の早さに、胸がじんわりとあたたかくなる。
そのとき、
――ピンポーン
玄関のチャイムが鳴った。
翔がちょうど、熱を込めて続きを話し出そうとしていたので、麻里子は一瞬戸惑った。
「……出ようか?」
麻里子が立ちかけると、太郎が軽く手を挙げて立ち上がった。
「いいよ、俺が出るよ。翔、話の続きはあとでな」
「うん!」翔がにこっと笑う。
太郎が玄関のドアを開けると、そこにはスーツ姿の男性が立っていた。
端整な顔立ちに、静かな眼差し。背が高く、控えめながらも風格のある佇まい。
「こんにちは。鈴木貴之と申します。麻里子さんはいらっしゃいますか?」
太郎は、一瞬だけ警戒するようにその男の顔を見つめた。
妹を訪ねてくる男に、自然と兄の目が厳しくなる。
「……太郎です。麻里子の兄です」
短く名乗ると、太郎は彼を玄関に招き入れた。
「妹がお世話になってます。どういったご関係で?」
「麻里子さんの上司です。ですが今日は、仕事ではなく……少しお話ができればと」
貴之の落ち着いた声と礼儀正しい態度に、太郎の警戒心がやや和らぐ。
ただ、兄としての本能が完全に納得するには、まだ時間が必要そうだった。
「まあ、上がってください。今ちょうど朝ごはん中ですけど、妹を呼びます」
ダイニングに戻った太郎は、麻里子に目をやった。
「麻里子。玄関に……鈴木さんって人が来てる。上司らしいけど」
「えっ……!」
麻里子の胸が、ふいに高鳴った。
まさか、今日来てくれるなんて思っていなかった。
心のどこかで、連絡しなかったことを気にしていたからこそ、驚きと嬉しさが一気に押し寄せる。
慌てて立ち上がりながら、麻里子は胸元を整え、そっと深呼吸をした。
彼に、この幸せな朝の光景を見せるのが、少しだけ誇らしくも思えた。