その抱擁は、まだ知らない愛のかたち
汐留の美術館は、涼しく静かで、平日の午前中ということもあり人も少なめだった。
ベル・エポックのポスター画が並ぶ展示室で、麻里子は興味津々の目で見入っている。
「ねえ、これ。なんだか貴之さんに似てない?」
小声でそう言って指差したのは、胸を張った紳士のイラスト。
「……どこがだよ」
苦笑しながらも、確かに髪型が似ている気がして、貴之も思わず吹き出す。
「いや、これは俺ってより真樹だな。こういう無駄に威厳のある感じ」
「ちょっと!それ本人の前で言えるの?」
「言わないよ。たぶん」
そんなやりとりをしながら、静かな展示室で二人だけの笑い声が小さく響いた。
そのあとの寿司屋では、二人とも迷わず「おまかせ」を選んだ。
「うん、美味しい……」麻里子が笑う。
「麻里子が笑ってると、俺のほうがとろけそうになる」
「そういうの、食べてるときに言わないで。味わかんなくなるでしょ」
そう言いつつも、嬉しそうに箸を進める麻里子を見て、貴之は内心、やっぱり、とろけてるのは俺の方だな、と思っていた。
「麻里子、このあと――俺の買い物に付き合ってくれないか」
「いいわよ」
小さく頷いたあと、麻里子がふと目を輝かせる。
「そのあと、トリコローレに寄ってもいい?アップルパイとカフェオレが飲みたくなっちゃった」
「いいぞ。あの喫茶店、俺も昔行ったきりだな。懐かしい」
貴之はにやりと笑ってから、麻里子の手を軽く引いた。
「じゃあ、まずはここだ」
そう言ってエスコートされた先は、ジュエリーショップの入り口。
「え?ここって……誰かのお祝い?」
「いや、違う。今日は、麻里子のジュエリーを買う」
「えっ……?でも、いいのよ。今までだって、いろいろもらってるし……」
戸惑う麻里子をよそに、貴之はガラスケースの前で立ち止まり、静かに言った。
「それとも指輪がいいか?どちらにしても、今日は麻里子にプレゼントしたい。毎日つけたいって思えるものを、選んでほしい」
麻里子の目がゆっくりと潤む。
「……じゃあ、貴之さんが、いくつか私に似合いそうなものを選んでくれる?」
「任せろ」
貴之はじっと麻里子の顔を見つめながら、慎重に三点を選び出す。そのなかから彼が手に取ったのは――
ホワイトゴールドの細いチェーンに、ダイヤモンドが三粒、その下に一粒の真珠。
さりげなく揺れる、繊細で気品のあるネックレスだった。
「……似合ってるよ」
静かな声に、麻里子はそっと微笑む。
「ありがとう。大切にするわ」
「つけて帰るだろ?箱だけ入れてもらおう」
「かしこまりました」と担当スタッフが微笑み、丁寧に対応する。
麻里子は胸元をそっと触れながら、ガラス越しの街並みを見た。
その輝きよりも、今、心の中が温かく光っている気がした。
ふたりは並んでジュエリー店を後にした。
ベル・エポックのポスター画が並ぶ展示室で、麻里子は興味津々の目で見入っている。
「ねえ、これ。なんだか貴之さんに似てない?」
小声でそう言って指差したのは、胸を張った紳士のイラスト。
「……どこがだよ」
苦笑しながらも、確かに髪型が似ている気がして、貴之も思わず吹き出す。
「いや、これは俺ってより真樹だな。こういう無駄に威厳のある感じ」
「ちょっと!それ本人の前で言えるの?」
「言わないよ。たぶん」
そんなやりとりをしながら、静かな展示室で二人だけの笑い声が小さく響いた。
そのあとの寿司屋では、二人とも迷わず「おまかせ」を選んだ。
「うん、美味しい……」麻里子が笑う。
「麻里子が笑ってると、俺のほうがとろけそうになる」
「そういうの、食べてるときに言わないで。味わかんなくなるでしょ」
そう言いつつも、嬉しそうに箸を進める麻里子を見て、貴之は内心、やっぱり、とろけてるのは俺の方だな、と思っていた。
「麻里子、このあと――俺の買い物に付き合ってくれないか」
「いいわよ」
小さく頷いたあと、麻里子がふと目を輝かせる。
「そのあと、トリコローレに寄ってもいい?アップルパイとカフェオレが飲みたくなっちゃった」
「いいぞ。あの喫茶店、俺も昔行ったきりだな。懐かしい」
貴之はにやりと笑ってから、麻里子の手を軽く引いた。
「じゃあ、まずはここだ」
そう言ってエスコートされた先は、ジュエリーショップの入り口。
「え?ここって……誰かのお祝い?」
「いや、違う。今日は、麻里子のジュエリーを買う」
「えっ……?でも、いいのよ。今までだって、いろいろもらってるし……」
戸惑う麻里子をよそに、貴之はガラスケースの前で立ち止まり、静かに言った。
「それとも指輪がいいか?どちらにしても、今日は麻里子にプレゼントしたい。毎日つけたいって思えるものを、選んでほしい」
麻里子の目がゆっくりと潤む。
「……じゃあ、貴之さんが、いくつか私に似合いそうなものを選んでくれる?」
「任せろ」
貴之はじっと麻里子の顔を見つめながら、慎重に三点を選び出す。そのなかから彼が手に取ったのは――
ホワイトゴールドの細いチェーンに、ダイヤモンドが三粒、その下に一粒の真珠。
さりげなく揺れる、繊細で気品のあるネックレスだった。
「……似合ってるよ」
静かな声に、麻里子はそっと微笑む。
「ありがとう。大切にするわ」
「つけて帰るだろ?箱だけ入れてもらおう」
「かしこまりました」と担当スタッフが微笑み、丁寧に対応する。
麻里子は胸元をそっと触れながら、ガラス越しの街並みを見た。
その輝きよりも、今、心の中が温かく光っている気がした。
ふたりは並んでジュエリー店を後にした。