その抱擁は、まだ知らない愛のかたち
貴之の唇が、執拗に麻里子の肌を辿る。
反対側の首筋へ、肩へ、鎖骨のくぼみへ。
音を立てるように繰り返されるキスは、愛撫というにはあまりに激しく、
麻里子の肌は火照り、涙は止まらなかった。

「いや……っ……」
小さな声で震えるように抵抗を口にしても、
貴之の動きは一切緩まない。

麻里子の両手首は、ひとつにまとめられたまま頭上へ押さえつけられた。
片手だけで、彼女の動きを封じている。

「離して……お願い……」
恐怖と快楽がないまぜになって、身体の奥がざわめく。
息も、思考も、もううまくできない。

ようやく貴之の手が離れたのを感じて、麻里子はゆっくり目を開いた。

貴之は、黙って彼女を見下ろしていた。
その視線は、ナイトドレスの胸元に落とされている。
何かを抑えているような、けれど危うい光を帯びたまなざし。

麻里子と視線が合った瞬間、貴之の口角が、意地悪く歪む。

貴之の手が麻里子のナイトドレスにかかった。
次の瞬間、鋭い音とともに、布が裂ける。

「……っ!」

ドレスは容赦なく破かれ、肩からずり落ちる。
麻里子の素肌が、ランプの明かりにあらわに照らされた。

「やめて……やめて……」
麻里子のか細い声が、ランプの下で震える。
けれど貴之は何も言わない。
その眼差しはただ獣のように、麻里子の身体を追っていた。

次の瞬間、貴之の手が下へと伸びる。
布が裂ける音がふたたび響いた。
ショーツ、最も密やかな布まで、容赦なく手で引き裂かれた。

麻里子の裸身が、すべてをさらけ出される。
ランプの柔らかい光は、彼女の肌の曲線を容赦なく照らし出していた。
その光が、より鮮明になる。
貴之がランプの明るさを上げたのだ。

麻里子の心臓が跳ねる。
羞恥と混乱で顔が熱くなり、涙が滲む。
何も身に纏っていない自分を、
貴之は片手で手首を押さえつけたまま、ただじっと見下ろしている。

その視線が、言葉以上に何かを物語っていた。
力強く、逃げ道のない視線。
まるで、所有物を見るように。
まるで、永遠に失いたくない宝物を見るように。

「……お願い……明かりを……消して……」

麻里子は震える声で懇願した。
そのとき、貴之の顔がほんのわずか動いた。

「もう……お前が何を言っても、俺は聞かない」

低く、押し殺したような声だった。
けれどその言葉には、明確な決意と怒りが滲んでいる。

「“時間の無駄”とか……“ほかの女のほうが迷わなくいい”とか……もう、どうでもいい」
「お前は、俺から逃げた」
「拒絶したんだ、何度も……俺のことを」

貴之の瞳が揺れた。
怒りと、悲しみと、どうしようもない愛情が、
ぐちゃぐちゃに混ざって押し寄せている。

「こんなに、愛しているのに……」

声が少し掠れる。
「言葉でも態度でも、どんな手段を使ってでも……
お前を愛してるって、伝え続けてきたのに……」

「それでも……お前から、“好き”の一言も、“愛してる”の一言も聞けない」
「なのに俺は、今もこうして……お前を、誰よりも大事にしてる」

そこまで言ったあと、貴之の目が静かに据わった。
何かが吹っ切れたように、声が一段と低くなる。

「もういい。今夜は、お前にわからせてやる」

「お前の身体に、俺の愛を刻み込む。
何度でも抱いて、何度でも教える。
お前が逃げられないほどに、俺のものだって、刻みつける」

「わかってるんだよ、麻里子……」
「お前はもう……俺を愛してる。
お前の心はとっくに、俺を求めてる」
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