その抱擁は、まだ知らない愛のかたち
二人が再び目を覚ましたのは、ほとんどお昼に差しかかろうとしていた頃だった。
貴之はサンドイッチのデリバリーを手配し、シャワーを浴びると、ゆっくりとコーヒーを淹れる。
部屋に広がる香ばしい香りと静けさの中で、彼の心は不思議なほど満ちていた。
その間に、麻里子も目を覚まし、バスルームへと向かった。
シャワーの音がやわらかく響く。やがて、水音が止まり、ほどなくして彼女がルームウェア姿で戻ってくる。濡れた髪を軽くタオルで押さえながら、少し照れたように微笑んだ。
「おいで」
そう言って貴之が両腕を広げると、麻里子は素直に彼の胸に身を預けた。
貴之は静かに彼女を抱きしめ、麻里子もそっと、同じ強さで抱き返す。
ぬくもりと静けさが、言葉以上にすべてを物語っていた。
サンドイッチを食べ終え、ふたりでコーヒーのお代わりを楽しんでいた。
午後の日差しがゆるやかに差し込み、リビングには心地よい静けさが流れている。
カップをテーブルに置きながら、貴之がふと口を開いた。
「麻里子。明日から、伊香保温泉へ行かないか?」
「えっ……いいの?」
ぱっと顔を輝かせる麻里子に、貴之はうなずく。
「もちろん。楽しみだろ?」
「うん、すごく。……一泊? それとも二泊?」
「宿がとれれば二泊にしよう。至れり尽くせりの夏休みの締めくくり、悪くないだろ?」
「ふふ、そうね」
カップを両手で包みながら、麻里子がうれしそうに笑う。
その頬の柔らかな赤みが、朝の余韻を思い出させるようで、貴之の胸にあたたかいものが広がった。
「さて、今日は――と言ってももう半分終わってるが、したいことはあるか?」
「うーん……」
麻里子は少し首を傾げて、はにかんだ。
「……ちょっと、体がだるいから、どこにも行きたくない。何か作って、ゆっくり晩酌がしたいかな」
「いいね。じゃあ買い物に行くのは俺が担当だな」
「ありがとう……。ところで、貴之さんは? 何かしたいことある?」
「あるぞ」
そう言って、貴之はカップを置き、ゆっくりと麻里子のもとへ歩み寄る。
その目に湛えられた熱に、麻里子は瞬時に察して、目を伏せる。
「もう……また?」
わざと困ったように言った麻里子の声は、どこか甘くふるえていた。
貴之はくすっと笑いながら、彼女の頬にキスを落とす。
「うん。……まだ、足りない」
そう囁くと、ルームウェアの裾に手を差し入れ、そっと肌へと触れる。
麻里子の体がぴくりと小さく震えるのを感じながら、貴之はそのまま彼女をソファへと押し倒した。
「なぁに……今夜まで待てないの?」
「待つ理由が、見当たらない」
甘く、どこかいたずらっぽい声。
ふたりの間に、ふたたび静かに熱が立ちのぼる。
コーヒーの香りが残る午後、愛しさに包まれながら、時がゆっくりと溶けていった。
貴之はサンドイッチのデリバリーを手配し、シャワーを浴びると、ゆっくりとコーヒーを淹れる。
部屋に広がる香ばしい香りと静けさの中で、彼の心は不思議なほど満ちていた。
その間に、麻里子も目を覚まし、バスルームへと向かった。
シャワーの音がやわらかく響く。やがて、水音が止まり、ほどなくして彼女がルームウェア姿で戻ってくる。濡れた髪を軽くタオルで押さえながら、少し照れたように微笑んだ。
「おいで」
そう言って貴之が両腕を広げると、麻里子は素直に彼の胸に身を預けた。
貴之は静かに彼女を抱きしめ、麻里子もそっと、同じ強さで抱き返す。
ぬくもりと静けさが、言葉以上にすべてを物語っていた。
サンドイッチを食べ終え、ふたりでコーヒーのお代わりを楽しんでいた。
午後の日差しがゆるやかに差し込み、リビングには心地よい静けさが流れている。
カップをテーブルに置きながら、貴之がふと口を開いた。
「麻里子。明日から、伊香保温泉へ行かないか?」
「えっ……いいの?」
ぱっと顔を輝かせる麻里子に、貴之はうなずく。
「もちろん。楽しみだろ?」
「うん、すごく。……一泊? それとも二泊?」
「宿がとれれば二泊にしよう。至れり尽くせりの夏休みの締めくくり、悪くないだろ?」
「ふふ、そうね」
カップを両手で包みながら、麻里子がうれしそうに笑う。
その頬の柔らかな赤みが、朝の余韻を思い出させるようで、貴之の胸にあたたかいものが広がった。
「さて、今日は――と言ってももう半分終わってるが、したいことはあるか?」
「うーん……」
麻里子は少し首を傾げて、はにかんだ。
「……ちょっと、体がだるいから、どこにも行きたくない。何か作って、ゆっくり晩酌がしたいかな」
「いいね。じゃあ買い物に行くのは俺が担当だな」
「ありがとう……。ところで、貴之さんは? 何かしたいことある?」
「あるぞ」
そう言って、貴之はカップを置き、ゆっくりと麻里子のもとへ歩み寄る。
その目に湛えられた熱に、麻里子は瞬時に察して、目を伏せる。
「もう……また?」
わざと困ったように言った麻里子の声は、どこか甘くふるえていた。
貴之はくすっと笑いながら、彼女の頬にキスを落とす。
「うん。……まだ、足りない」
そう囁くと、ルームウェアの裾に手を差し入れ、そっと肌へと触れる。
麻里子の体がぴくりと小さく震えるのを感じながら、貴之はそのまま彼女をソファへと押し倒した。
「なぁに……今夜まで待てないの?」
「待つ理由が、見当たらない」
甘く、どこかいたずらっぽい声。
ふたりの間に、ふたたび静かに熱が立ちのぼる。
コーヒーの香りが残る午後、愛しさに包まれながら、時がゆっくりと溶けていった。