その抱擁は、まだ知らない愛のかたち
伊香保温泉へ
伊香保温泉の石段街へ向かう道中、山間の景色が少しずつ開けてきた。初夏の空は高く、雲はゆるやかに流れている。
「もうすぐ着くよ」
貴之がそう声をかけると、麻里子は窓の外に目を向けた。木々の緑が風に揺れていて、どこか懐かしい香りがした。
午前のドライブの疲れを癒すように、ふたりは伊香保に到着すると、まずは温泉街にある古民家風のカフェでランチをとった。山菜の天ぷら、手打ちそば、地元野菜の煮物——どれも素朴で、優しい味がした。
「うん、美味しい……」
嬉しそうに頬をゆるめる麻里子を見て、貴之は静かに微笑む。彼女がリラックスしていることが、何より嬉しかった。
昼食後は、榛名山のロープウェイに乗り込む。二人並んで乗ったゴンドラの中、麻里子は風景を見ながら「こんなに高いところ……久しぶり」とはにかんだ。貴之がさりげなく彼女の手を取り、自分の膝にのせる。
「怖いのか?」
「ううん……なんだか、夢みたいで」
「夢じゃない。俺たちは今、ちゃんとここにいる」
榛名湖では、湖畔を手をつないで歩いた。ボートに乗る家族連れを眺めながら、二人はゆったりとした時間を味わう。湖面に映る空は青く澄み、麻里子の横顔をいっそう美しく見せた。
「こういう時間って、必要だったんだなって思う」
「これから、もっと一緒に過ごすよ」
その後立ち寄った長峰公園では、花の咲く小道を歩いた。
麻里子が展望台から温泉街や小野子山、子持山、赤城山が一望している姿を、貴之は愛しそうに見守っていた。
風が吹き抜け、麻里子のワンピースがふわりと揺れる。
そして最後に訪れたのは、箱島湧水。透明な水が音を立てて流れ出る様子を、ふたりは無言で見つめていた。
「きれい……生きてるみたい」
「お前も、そう思うか」
貴之はポケットから小さなボトルを取り出し、湧水を汲んだ。
宿に着いたふたりを迎えたのは、木と石の静かな調和が息づく上質な空間。奥伊香保の隠れ宿は、その名の通り、静けさと調和の贅沢に包まれていた。
「わあ……」
麻里子が声を漏らす。部屋に案内された瞬間、その奥に見える専用の露天風呂と、広々としたテラスに目を奪われたのだった。
「どう?気に入った?」
貴之が後ろからそっと声をかける。
「すごい……ほんとうに素敵」
「よかった。今日、頑張って予約とって正解だったな」
ふたりはさっそく部屋付きの露天風呂へと向かった。木の香りが優しく立ちのぼる湯船に、並んで身を沈める。
話題は長峰公園の紫陽花、箱島湧水の澄んだ水、そして昼食で食べた蕎麦の話へと流れていく。柔らかな湯に包まれながら、ふたりはしばしその日の記憶を味わった。
柔らかな湯に包まれ、ふたりは静かに今日の思い出を語り合った。
榛名湖の風、紫陽花の小径、箱島湧水の清らかさ――すべてが、まだ肌に残っているようだった。
湯から上がったあと、麻里子は髪をまとめ、藤色の浴衣を身にまとっていた。
淡く乱れた襟元からのぞく鎖骨、湯気にほんのり染まった頬、素足にかかる裾の揺れ。無防備なその姿に、貴之は一瞬、言葉を失った。
「……麻里子」
その声に、彼女が顔を上げた。
「なに?」
返事を待たず、貴之は一歩近づく。
次の瞬間、貴之は麻里子の腰を引き寄せ、布団の上にそっと倒した。
夕暮れ前の静寂に、浴衣の擦れる音と、ふたりの甘い吐息だけが溶けていった。
「もうすぐ着くよ」
貴之がそう声をかけると、麻里子は窓の外に目を向けた。木々の緑が風に揺れていて、どこか懐かしい香りがした。
午前のドライブの疲れを癒すように、ふたりは伊香保に到着すると、まずは温泉街にある古民家風のカフェでランチをとった。山菜の天ぷら、手打ちそば、地元野菜の煮物——どれも素朴で、優しい味がした。
「うん、美味しい……」
嬉しそうに頬をゆるめる麻里子を見て、貴之は静かに微笑む。彼女がリラックスしていることが、何より嬉しかった。
昼食後は、榛名山のロープウェイに乗り込む。二人並んで乗ったゴンドラの中、麻里子は風景を見ながら「こんなに高いところ……久しぶり」とはにかんだ。貴之がさりげなく彼女の手を取り、自分の膝にのせる。
「怖いのか?」
「ううん……なんだか、夢みたいで」
「夢じゃない。俺たちは今、ちゃんとここにいる」
榛名湖では、湖畔を手をつないで歩いた。ボートに乗る家族連れを眺めながら、二人はゆったりとした時間を味わう。湖面に映る空は青く澄み、麻里子の横顔をいっそう美しく見せた。
「こういう時間って、必要だったんだなって思う」
「これから、もっと一緒に過ごすよ」
その後立ち寄った長峰公園では、花の咲く小道を歩いた。
麻里子が展望台から温泉街や小野子山、子持山、赤城山が一望している姿を、貴之は愛しそうに見守っていた。
風が吹き抜け、麻里子のワンピースがふわりと揺れる。
そして最後に訪れたのは、箱島湧水。透明な水が音を立てて流れ出る様子を、ふたりは無言で見つめていた。
「きれい……生きてるみたい」
「お前も、そう思うか」
貴之はポケットから小さなボトルを取り出し、湧水を汲んだ。
宿に着いたふたりを迎えたのは、木と石の静かな調和が息づく上質な空間。奥伊香保の隠れ宿は、その名の通り、静けさと調和の贅沢に包まれていた。
「わあ……」
麻里子が声を漏らす。部屋に案内された瞬間、その奥に見える専用の露天風呂と、広々としたテラスに目を奪われたのだった。
「どう?気に入った?」
貴之が後ろからそっと声をかける。
「すごい……ほんとうに素敵」
「よかった。今日、頑張って予約とって正解だったな」
ふたりはさっそく部屋付きの露天風呂へと向かった。木の香りが優しく立ちのぼる湯船に、並んで身を沈める。
話題は長峰公園の紫陽花、箱島湧水の澄んだ水、そして昼食で食べた蕎麦の話へと流れていく。柔らかな湯に包まれながら、ふたりはしばしその日の記憶を味わった。
柔らかな湯に包まれ、ふたりは静かに今日の思い出を語り合った。
榛名湖の風、紫陽花の小径、箱島湧水の清らかさ――すべてが、まだ肌に残っているようだった。
湯から上がったあと、麻里子は髪をまとめ、藤色の浴衣を身にまとっていた。
淡く乱れた襟元からのぞく鎖骨、湯気にほんのり染まった頬、素足にかかる裾の揺れ。無防備なその姿に、貴之は一瞬、言葉を失った。
「……麻里子」
その声に、彼女が顔を上げた。
「なに?」
返事を待たず、貴之は一歩近づく。
次の瞬間、貴之は麻里子の腰を引き寄せ、布団の上にそっと倒した。
夕暮れ前の静寂に、浴衣の擦れる音と、ふたりの甘い吐息だけが溶けていった。