その抱擁は、まだ知らない愛のかたち
貴之が帰ったあと、美和子はカップを片づけながらぽつりと呟いた。

「……麹料理の教室で、また麻里ちゃんと会うの。
きっと、彼女がどう思っているのか、少しは聞けると思うわ」

キッチンの明かりが、やわらかく揺れていた。

真樹はグラスの底を眺めながらうなずいた。

「そうだな。
貴之はもう、麻里子さんなしじゃ生きていけないだろうな。
あいつ……出会っちまったんだな、運命の女に」

美和子は静かに笑った。

「うん……麻里ちゃんが、彼にとって唯一無二の存在なんでしょうね。
あんなふうに誰かを真っ直ぐに想えるなんて……幸せなことよね」

ふたりの間に、穏やかな沈黙が流れる。

時計の針が、夜の深まりを静かに告げていた。

それぞれの想いを胸に、ふたりはゆっくりと灯りを落とした。
それぞれの夜が、静かに更けていった。

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