さよなら、痛みの恋 ― そして君と朝を迎える
第四章 あなたを好きになる勇気
春の風がやわらかく、ベランダに干したシャツを優しく揺らす。
紗夜はキッチンで、悠真のために昼食を作っていた。彼は午前中の会議で出社しており、午後には戻る予定だった。
ほんの数週間前まで、自分が料理をするなんて思いもしなかった。いつも気を張って、何をしても怒られないように、ただ“怒られない選択”だけをしていた。
けれど、いまは違う。
悠真の好物を考えて、塩加減や味付けに工夫するのが楽しい。彼の「うまい」の一言が、胸いっぱいの花を咲かせる。
(この平穏が、ずっと続けばいいのに)