新米研究所員 星宮かおるの日記【アルトレコード】
×月29日
 昨日は眠くて書きながら寝落ちしちゃった。仕事、忙し過ぎる。でも最近のアルトは落ち着いてくれて良かった。
 昨日の続きを書く。

 三人の人が逃げて来て、その後ろになにか現れた、と思ったら、ドラゴンだった!
 通路の天井に頭がつっかえるのか、長い首の先の頭を下げて歩いてくる。胴体は通路幅いっぱい、黒いコウモリみたいな羽は折り畳まれていた。

 逃げた猛獣? 猛獣じゃなくて幻獣じゃん! 虎型とドラゴン、聞き違えた!? って思ったけど、もうそれどころじゃない。

 逃げて来た三人は、この前、私に絡んできた女性たちだった。
「助けて!」
 彼女らは私の後ろに隠れた。腰を掴んでくるから、逃げられなくなった。

 なんで私を盾にするの!? 早く逃げればいいのに!
 と思ったけど、びっくりして声がでなかった。

 メインエントランスに来たドラゴンは自由を得たとばかりに首を伸ばした。
 でかい。とにかくでかい。どこかのお金持ちからの発注なのか、すべてが精巧で鱗の一枚一枚までリアルだ。爬虫類のような目の動きがまた怖すぎる。

 ドラゴンはぐるぐると唸ってこちらを睨み、じりじりと寄ってくる。
 なんだか私、狙われている気がする。

「えーっと、緊急パスは……」
 こういうときのために緊急停止用のパスコードがあって、研究所員の音声認識で止められるはずだった。だが。

『続報です。猛獣AIはドラゴン型と判明。暴走しているため、緊急停止コードが発動しません。繰り返します。ドラゴン型AIは緊急停止コードが発動しません。見かけても近寄らず、避難してください』
 放送内容に、私は顔をひきつらせた。

「先生、大丈夫!?」
 耳元でアルトが言う。
「大丈夫よ、アルトはポケットに入ってて」
 左肩に手を差し出すと、アルトはその手にそっと乗り移る。

 そのときだった。
 ドラゴンが咆哮を上げ、炎を吐いた。
「きゃああ!」
 とっさに逃げようとするが、後ろにいる人に固定されているので動けない。
 アルトだけは守らないと!

 私は両手でアルトを包みこみ、炎を浴びた。
 死を覚悟したが、まったく熱くも痛くもない。

 ……あれ?
 私は目をぱちくりさせてドラゴンを見た。
 どうやら炎はホログラムのようだ。まぎらわしい!

「こんなの死んじゃう!」
「嫌だ!」
「もうダメ!」
 三人が叫びながら逃げ出し、ドラゴンはぎろりとそちらを見る。ダメだ、このままじゃ彼女たちが標的にされちゃう!

「どこ見てるの、あなたの相手は私よ!」
 とっさにそう言うと、ドラゴンが私を見た。ああ、なんにも考えてないのに!

「コード9999! 非常停止」
 非常停止コードを叫んで見るが、ドラゴンは止まらず、どしん、どしん、と歩いてくる。

「先生、降ろして、ぼくが助ける!」
「ダメよ、私は大丈夫だから!」
 ドラゴンは再び炎を吐くが、それもホログラムだ。
 怖い……けど、ホログラムなんだから、大丈夫なはず。

 そもそも人を襲わないようにプログラムされて……て、ちょっと待って。それならどうして人に炎を吐くの? ホログラムは大丈夫って判断? まさか、人を襲う? あの大きさなら重量は車程度はあるはず。だとしたら、あの図体に圧し潰されたらきっと死んじゃう。

 よし、私も逃げよう! 
 まずはあいつの気を逸らして……。
 えっと、ドラゴンは宝石が好きなんだったっけ?

「アルト、ビー玉を貸して」
「なんで?」

「ドラゴンは宝石が好きでしょ。あいつに投げて気を逸らしてその間に逃げるの」
「わかった。炎のドラゴンなら水の宝玉でやっつけられるよ!」
 アルトからビー玉を受け取ると、ドラゴンに見せる。宝石っぽいから、これでなんとか。

「あなたの好きな宝石よ」
 言って、私は遠くへ向かって投げる。ドラゴンがこれを追いかけてくれるようにと願って。
 けど、緊張からか、コントロールを失敗した。

「やば!」
 ドラゴンの顔の真ん前に投げてしまい、ドラゴンはぱくっとビー玉を食べてしまう。
「宝玉が!」
 アルトが叫ぶけど、返事してられない。

 私はダッシュした。が、時すでに遅かった。ドラゴンはふわりとひとっとびで私の前に周り、立ち塞がる。ああ、この建物の設計者はなんで吹き抜けなんて作ったのよ! てか、この図体で飛べるようにするとか、ドラゴンの設計者を恨む!

 たたらをふんだ私はそのまま勢いを殺せずに仰向けに転んでしまい、上半身をドラゴンの片足で踏まれて動けなくなる。

「うそ……」
 私はもがくが、どうにも動けない。このままのしかかられたら死ぬかも。
「先生!」
「アルト、逃げて」
 私は手の中にいたアルトを床に降ろした。

 ドラゴンは再び咆哮し、口を大きく開けて私の首を狙って来る。
 どうしよう。暴走しているなら、本当に噛みつかれてしまうかもしれない。首を狙って来ている。頸動脈が切れたら出血多量で……なんてこともありうる。

「コード9999! 非常停止!」
 無駄と思いつつ言ってみるが、やはり効果はない。ドラゴンはふいに首をあげると、があー! とも、ごおー! ともつかない感じで吠えた。勝利の雄たけびと言わんばかりに咆哮を繰り返し、また首を狙って来る。

「先生、今助けるから!」
 ミニミニ義体のアルトがてこてこと走って来る。
「ダメよ、逃げて!」
 だけどアルトは言うことを聞かない。

「大丈夫! 呪われし力を解放する! 雷光よ、我が意に従え!」
 アルトが叫ぶと、ぱあっと光が走った。思わずまぶしてく目をつぶる。
 これ、いつかの光エフェクト!?

 どうやらドラゴンもまぶしかったらしく、近付く首の気配が遠ざかった。処理しきれない光量だったようた。
 その間に、アルトは、よいしょ、と私の体をよじ登る。感触でそれがわかった。アルトは私の胸元に移動したあと、また移動する。

「どうするつもりなの!?」
「こうするの」
 アルトは得意げに答える。
 必死に目を開けると、アルトはベルトにおもちゃの剣を差していた。胸にあったIDケースから抜き取ったらしい。

 私を抑えているドラゴンの足を伝ってすいすいとよじのぼり、よいしょ、と口の中に入っていく。

「アルト!」
 ドラゴンは異物を感知して首を振る。が、アルトが吐き出される様子はない。
「アルト、アルト!」
 ドラゴンは暴れ回り、アルトはdfghjんk
< 25 / 29 >

この作品をシェア

pagetop