甘い生活を夢見る私は、甘くない彼に甘やかされる
LIFE.25
櫛方さんを見送ると、増沢は私を心配そうに見下ろした。
「……お嬢様……これで、よろしかったのですか……?」
「――うん。……私に、今さら会社のコトなんて、わかるはずもないし――今となっては、わかりたくもないから」
私は、振り返ると、増沢を見上げる。
「それに、会社が乗っ取られてもう二年よ。ツクモダで働いていた人達だって、もう、新しい居場所があるはずでしょ」
「――それは……おっしゃるとおりでございますが……」
「だから、私も――新しい居場所を探そうかな、って」
「――……お嬢様?」
少しだけ戸惑いを見せる増沢に、私は、笑顔を見せる。
「……今やってる仕事を投げ出すつもりは無いわよ?……でも……区切りがついたら、辞める。……いっそ、海外にでも行こうかしら」
「――……さようでございますか……」
「……うん。……その間、増沢にはいろいろ教えてもらわないとだけど」
「それは、もちろんでございます。――ですが……」
増沢は、言葉を切ると、私を真っ直ぐに見つめて言った。
「……日水様の事は、どうなさるおつもりでしょう」
その問いかけには、口元を上げて返す。
――答えは、まだ、出なかった。
翌日から、また、資料整理に勤務時間のすべてを費やし、気がつけば、もう二か月ほど経っていた。
その甲斐もあってか、ようやくひと段落つきそうだ。
「お疲れ様、ひとまず、これで全部データ化されたと思う。後は、システム部に引き継ぐ予定だから」
そう、嘉山さんが、書類倉庫を見回して言った。
私達は、大きく息を吐く。
何だか、ようやく肩の荷が下りたという気分だ。
「それじゃあ、戻って日水に報告しよう」
そして、そう続けられると、内沼さんが、ビシッと音が聞こえるかと思うほど、勢いよく手を上げる。
「じゃあさ、お疲れ様会とか、どう⁉」
「――お前なぁ……」
嘉山さんは、あきれたように彼を見やるが、私と池之島さんに視線を向けて尋ねた。
「二人は、どうする?強制じゃないけど――まあ、コイツが拗ねる」
その言葉に、クスリ、と、笑ってしまい、私はうなづいた。
「行きます」
「アタシも」
間髪入れずに、隣に立っていた池之島さんが答えた。
「OK。じゃあ、いつものトコ、予約いれようか」
「やりぃ!」
内沼さんは、スキップするんじゃないかというくらいに、機嫌良く、エレベーターのボタンを押す。
――これで……辞めるコトができる……かな……。
何だか、自分の送別会のように思えてしまい、微かに首を振る。
既に三人はエレベーターに乗り込んでいくところだったので、それが見とがめられるコトは無かった。
総務部の部屋に戻り、嘉山さんが美善さんのところに報告に向かった。
私達は、それぞれの席に戻り、スケジュールの確認などをする。
その間に終業時刻となり、部内は波が引くように人が帰って行く。
そんな中、内沼さんは、上機嫌に私と池之島さんの席の間にやって来た。
「二人とも、すぐに出られそう?」
「あ、ハイ」
「大丈夫です」
私達がうなづくと、彼は、ロビーで待ってる、と、言い残し、去って行く。
「――アンタ、平気なの」
「え」
すると、不意に池之島さんに言われ、私は、目を丸くする。
「――……平気、って……」
「日水主任に言っておかなくて。――まあ、別れたんなら良いんだけど」
「……だ……大丈夫……」
――……今は、もう、そんなコトを気にかけてくれているのかも、わからない。
私は、デスクの上をサッと片付けると、タイムカードを切った。
「……お嬢様……これで、よろしかったのですか……?」
「――うん。……私に、今さら会社のコトなんて、わかるはずもないし――今となっては、わかりたくもないから」
私は、振り返ると、増沢を見上げる。
「それに、会社が乗っ取られてもう二年よ。ツクモダで働いていた人達だって、もう、新しい居場所があるはずでしょ」
「――それは……おっしゃるとおりでございますが……」
「だから、私も――新しい居場所を探そうかな、って」
「――……お嬢様?」
少しだけ戸惑いを見せる増沢に、私は、笑顔を見せる。
「……今やってる仕事を投げ出すつもりは無いわよ?……でも……区切りがついたら、辞める。……いっそ、海外にでも行こうかしら」
「――……さようでございますか……」
「……うん。……その間、増沢にはいろいろ教えてもらわないとだけど」
「それは、もちろんでございます。――ですが……」
増沢は、言葉を切ると、私を真っ直ぐに見つめて言った。
「……日水様の事は、どうなさるおつもりでしょう」
その問いかけには、口元を上げて返す。
――答えは、まだ、出なかった。
翌日から、また、資料整理に勤務時間のすべてを費やし、気がつけば、もう二か月ほど経っていた。
その甲斐もあってか、ようやくひと段落つきそうだ。
「お疲れ様、ひとまず、これで全部データ化されたと思う。後は、システム部に引き継ぐ予定だから」
そう、嘉山さんが、書類倉庫を見回して言った。
私達は、大きく息を吐く。
何だか、ようやく肩の荷が下りたという気分だ。
「それじゃあ、戻って日水に報告しよう」
そして、そう続けられると、内沼さんが、ビシッと音が聞こえるかと思うほど、勢いよく手を上げる。
「じゃあさ、お疲れ様会とか、どう⁉」
「――お前なぁ……」
嘉山さんは、あきれたように彼を見やるが、私と池之島さんに視線を向けて尋ねた。
「二人は、どうする?強制じゃないけど――まあ、コイツが拗ねる」
その言葉に、クスリ、と、笑ってしまい、私はうなづいた。
「行きます」
「アタシも」
間髪入れずに、隣に立っていた池之島さんが答えた。
「OK。じゃあ、いつものトコ、予約いれようか」
「やりぃ!」
内沼さんは、スキップするんじゃないかというくらいに、機嫌良く、エレベーターのボタンを押す。
――これで……辞めるコトができる……かな……。
何だか、自分の送別会のように思えてしまい、微かに首を振る。
既に三人はエレベーターに乗り込んでいくところだったので、それが見とがめられるコトは無かった。
総務部の部屋に戻り、嘉山さんが美善さんのところに報告に向かった。
私達は、それぞれの席に戻り、スケジュールの確認などをする。
その間に終業時刻となり、部内は波が引くように人が帰って行く。
そんな中、内沼さんは、上機嫌に私と池之島さんの席の間にやって来た。
「二人とも、すぐに出られそう?」
「あ、ハイ」
「大丈夫です」
私達がうなづくと、彼は、ロビーで待ってる、と、言い残し、去って行く。
「――アンタ、平気なの」
「え」
すると、不意に池之島さんに言われ、私は、目を丸くする。
「――……平気、って……」
「日水主任に言っておかなくて。――まあ、別れたんなら良いんだけど」
「……だ……大丈夫……」
――……今は、もう、そんなコトを気にかけてくれているのかも、わからない。
私は、デスクの上をサッと片付けると、タイムカードを切った。