甘い生活を夢見る私は、甘くない彼に甘やかされる
 それから、宣言通り、今週中に資料整理の仕事は終了。
 終わったかと思ったら、更に遅れて届いた五箱が追加されたけれど、何とか終わるコトができた。
 割合的には、池之島さんの力が八から九割のような気もするけれど、今度、こんな仕事があったら、私だって同じようにできないと。
 そう、決意するほどに、彼女の仕事ぶりは見習いたいと思った。
 同期なのに、全然違う。
 ――きっと、それは、仕事への向き合い方の差なんだろう。
 先日言われた言葉が、頭をよぎり、実感してしまう。

 ――……そりゃあ……イライラするよね……。

 私だって、同じ二年目なのに――未だに新入社員のような扱いで指導されるのは、デキないからだ。

 ――仕方ない、で、済ませるな。

 先輩の言葉を思い出し、沈んでしまう。

 ――私は……自分ができないコトを、できるようになろうという意思が無かった。

 今まで、みんな、周りがやってくれていたし、それで何も不自由は無かった。
 でも、思えば、同じような環境の()たちだって、学生の頃から自分の家の事業を手伝ったり、自分の会社を立ち上げたり、留学して交流を広げたり――いろいろやっていた。
 そんな中、私と言えば、甘い結婚生活を夢見るだけ。
 ただ――お膳立てしてくれた環境の中で、ボンヤリと生きていただけ。

 今になって、気がつくなんて、遅いけど――……。


 ――……せめて……仕事でくらいは、先輩の役に立ちたいな……。


 そしたら――少しは、私のコト、気にしてくれるかな……。


 動機は不純だけれど、今の私には、コレが精一杯。

 ――でも、それが――頑張るってコトだと思うから。



「それじゃ、お先」

 定時にパソコンをシャットダウンした池之島さんに、隣から、そう声をかけられ、私は驚いて顔を上げた。

「――何」

「あ、う、ううん。……お疲れ様……」

 まさか、挨拶されるとは、思っていなかった。
 すると、彼女は、私の手元をジッと見つめる。
「え、あ、あの」
「――その分類、入力フォームあるけど」
「え」
 私は、驚いて手元の書類を見やり、彼女を見上げた。

「あ、ありがと……」

「書式ファイルの中、探せば」

「う、うん」

 私は、急いで、言われたファイルの中をスクロールしていく。
 そして、見つけたものが合っているか、顔を上げると、池之島さんは後ろから、一言、それ、と、だけ告げた。
「――ありがと……」
「この前の合コン、良い物件捕まえたの。今のアタシは、割と機嫌良いから、聞くなら今のうちよ」
 そう、冗談とも本気とも取れない言葉が聞こえ、私は、彼女の背中を見つめる。
 答えはわからなかったけれど――少なくとも、敵意が無いコトだけは、わかった。
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