甘い生活を夢見る私は、甘くない彼に甘やかされる
「じゃあ、気をつけて帰ってくださいよ。最近、ここら辺、物騒だから」
「ハイ。ありがとうございました」
私は、宣言通り、仕事を終えて九時に会社を出ると、警備員さんにそう言って見送られる。
それに頭を下げて返し、急いでバスターミナルへ。
最終一本前が、確か、九時半過ぎ。
早足で駅へ向かい、そのままいつものバス停へ。
どうにか間に合ってくれて、私は、とりあえずベンチに座った。
――先輩、今日は、帰ってこなかったな……。
課長が病欠したので、そのフォローでいろいろと忙しいらしい。
今日も、朝からバタバタしていたようで、外出先から直帰のようだった。
顔を合わせたのは、一昨日が最後。
それでも、会社は普段通りに仕事が回っていく。
――……だからこそ……来週会ったら、胸を張っていたいんだ。
少しは、やれるようになりました。
――同期のみんなとは、まだまだ差があるけれど、私なりに、頑張りました。
そう、言えれば良い。
そして、バスが到着し、見たコトのあるような人たちとバスに乗り込んでいく。
私は、後方、二番目ほどの一人掛けに座ると、バッグをヒザの上に抱えた。
――そう言えば、増沢に連絡してないな……。
けれど、つい先日来てくれたばかりだし、そもそも、それすらもイレギュラーなのだ。
心細くはあるけれど、いつまでも同じコトの繰り返しじゃ、先輩にあきれられる。
――もっと、強くならなきゃ。
少なくとも、世間知らずのレッテルは、いい加減剥がしたい。
私は、バッグを抱えた両手を握り締めた。
そして、いつものバス停に到着すると、他に降りたのは二人ほど。
それも、いつもの人たちで、三人で別方向へと歩き出す。
――あ、そう言えば、今日のご飯どうしよ……。
増沢に作ってもらったストック料理は、あと一個だ。
……でも、来週には、お給料入るし……。
歩きながら、悩みに悩み抜く。
お財布の中身は心細いけれど――一食分くらいは、買えるはず。
そう結論付けると、私は、コンビニへと方向を変え――そして、違和感。
――……何か……気配がする……。
けれど、足を止めるワケにもいかないような気がして、無心でコンビニまでの道のりを歩く。
――……そう言えば……ひったくりって……。
後ろを見たくても、怖くなってきて顔を動かせない。
――ダメ!いくら、何も無い財布とバッグでも、盗られたくない!
そう思い、思わずバッグを抱えて走り出した。
そして――
「ぅわきゃっ……!!!?」
ものの三メートルほどで、足がもつれて体勢は崩れ――
けれど、目をつむって衝撃を待っていても、いつまでもやってこない。
――そして――懐かしさを覚える感触に、私は、そっと目を開ける。
「――このバカ、急に走り出すな!ヒールあるんだろ、その靴!」
「……先輩……?」
目の前の先輩は、私を抱えながら、そう言って怒ったのだった。
「ハイ。ありがとうございました」
私は、宣言通り、仕事を終えて九時に会社を出ると、警備員さんにそう言って見送られる。
それに頭を下げて返し、急いでバスターミナルへ。
最終一本前が、確か、九時半過ぎ。
早足で駅へ向かい、そのままいつものバス停へ。
どうにか間に合ってくれて、私は、とりあえずベンチに座った。
――先輩、今日は、帰ってこなかったな……。
課長が病欠したので、そのフォローでいろいろと忙しいらしい。
今日も、朝からバタバタしていたようで、外出先から直帰のようだった。
顔を合わせたのは、一昨日が最後。
それでも、会社は普段通りに仕事が回っていく。
――……だからこそ……来週会ったら、胸を張っていたいんだ。
少しは、やれるようになりました。
――同期のみんなとは、まだまだ差があるけれど、私なりに、頑張りました。
そう、言えれば良い。
そして、バスが到着し、見たコトのあるような人たちとバスに乗り込んでいく。
私は、後方、二番目ほどの一人掛けに座ると、バッグをヒザの上に抱えた。
――そう言えば、増沢に連絡してないな……。
けれど、つい先日来てくれたばかりだし、そもそも、それすらもイレギュラーなのだ。
心細くはあるけれど、いつまでも同じコトの繰り返しじゃ、先輩にあきれられる。
――もっと、強くならなきゃ。
少なくとも、世間知らずのレッテルは、いい加減剥がしたい。
私は、バッグを抱えた両手を握り締めた。
そして、いつものバス停に到着すると、他に降りたのは二人ほど。
それも、いつもの人たちで、三人で別方向へと歩き出す。
――あ、そう言えば、今日のご飯どうしよ……。
増沢に作ってもらったストック料理は、あと一個だ。
……でも、来週には、お給料入るし……。
歩きながら、悩みに悩み抜く。
お財布の中身は心細いけれど――一食分くらいは、買えるはず。
そう結論付けると、私は、コンビニへと方向を変え――そして、違和感。
――……何か……気配がする……。
けれど、足を止めるワケにもいかないような気がして、無心でコンビニまでの道のりを歩く。
――……そう言えば……ひったくりって……。
後ろを見たくても、怖くなってきて顔を動かせない。
――ダメ!いくら、何も無い財布とバッグでも、盗られたくない!
そう思い、思わずバッグを抱えて走り出した。
そして――
「ぅわきゃっ……!!!?」
ものの三メートルほどで、足がもつれて体勢は崩れ――
けれど、目をつむって衝撃を待っていても、いつまでもやってこない。
――そして――懐かしさを覚える感触に、私は、そっと目を開ける。
「――このバカ、急に走り出すな!ヒールあるんだろ、その靴!」
「……先輩……?」
目の前の先輩は、私を抱えながら、そう言って怒ったのだった。