甘い生活を夢見る私は、甘くない彼に甘やかされる
LIFE.18
数歩先を行く先輩の後を、重い足取りでついていく。
時折、振り返られているように感じるけれど、うつむいている私には、確かめる術は無い。
――……何で、いるのよ……。
すると、視界に先輩の大きな靴が入り込み、思わず顔を上げてしまった。
「――……やっぱり、ウチにするか」
「え」
「津雲田、これから予定は」
「……な、何で、ですか……」
そう言って返せば、先輩は、気まずそうに続ける。
「……とにかく、オレの言い分も聞け。……一人で突っ走るな」
「……何ですか、それ……」
――この上、トドメを刺す気ですか。
私は、ふい、と、子供のように顔を背けた。
けれど、手を、先輩の大きな手に包み込まれ――指を絡められ、逃げるコトなどできない。
まだ、ダメージが残っているのに、そんな風にしないでほしい。
――……じゃなきゃ、性懲りも無く、期待してしまうじゃない。
――せっかく、心機一転、頑張ろうって決めたのに。
そんな私の想いなどお構いなしに、先輩は私を連れて、バス停の方へ戻っていく。
「せ、先輩、私、帰りたいんですけど……」
「――お前が逃げるからだろうが」
「何ですか、それ!」
「それは、こっちのセリフだ!言うだけ言って、逃げ回りやがって――」
言い合いをしながらも、手は離さない。
パラパラとすれ違う人達は、痴話ゲンカに見えたようで、少し距離を取られてしまった。
引きずられるように連れられて大通りに出ると、先輩は、流しのタクシーを捕まえ、あっさりと私を押し込み、自分も乗り込んだ。
そして、自宅の住所を告げると、私の手を離す。
その、消えていく温もりが悲しくて――顔を上げられない。
――ホントに、何なの。
――急に現れて……連れ去り事案でしょ、コレ!
心の中で抗議してはみるけれど、でも、会えたうれしさに、気持ちのバランスが取れない。
時折、チラリと先輩を見上げるけれど、窓の外を見ているだけで、視線は合うことは無く。
静かな車内は、時折、タクシー会社の無線の声が聞こえるだけ。
それが、やっぱり悲しくて――約三十分ほどの道のりは、ずっと無言のまま。
――その間、握り続けていた私の手は、力を入れ過ぎて青くなっていた。
「ありがとうございました」
会計を終え、去って行くタクシーを見送ると、先輩は再び私の手を取ろうとして、止まった。
「……おい、手の色、おかしいだろ」
「……気のせいです」
「ちょっと、見せてみろ」
伸ばされた先輩の手を避けるように、私は、一歩後ずさる。
先輩は、眉を寄せると、あっさりと、その距離をつめた。
「逃げるな」
「逃げてません」
「――じゃあ、ちゃんとついて来い」
「……何でですか」
お互い、マンションの脇の道路の隅で睨み合う。
「……話があるっつっただろ」
「私には、ありません」
そう言って、視線を逸らすと、先輩は、大きく息を吐いた。
そして――
「――……ったく、このお嬢は!」
「へ??」
言うなり、先輩は私を抱え上げた。
「――きゃあああっっ……!!??」
私は、その浮遊感にギョッとし、思わず先輩の首元にしがみつく。
――それは、完全に、お姫様抱っこ。
「せっ、せっ……」
「ちゃんとしがみついておけ。――落ちたくなかったらな」
「横暴!」
「何とでも言え。素直についてきたら、こんなコトはしねぇんだよ」
いつもよりも近い声に、胸はあきらめも悪く跳ね上がった。
チラリと視線を向ければ、先輩の、まあまあ端正な顔が至近距離に。
速くなる鼓動に、なす術は無くて。
結局、私は、そのまま先輩の部屋まで運ばれてしまった。
時折、振り返られているように感じるけれど、うつむいている私には、確かめる術は無い。
――……何で、いるのよ……。
すると、視界に先輩の大きな靴が入り込み、思わず顔を上げてしまった。
「――……やっぱり、ウチにするか」
「え」
「津雲田、これから予定は」
「……な、何で、ですか……」
そう言って返せば、先輩は、気まずそうに続ける。
「……とにかく、オレの言い分も聞け。……一人で突っ走るな」
「……何ですか、それ……」
――この上、トドメを刺す気ですか。
私は、ふい、と、子供のように顔を背けた。
けれど、手を、先輩の大きな手に包み込まれ――指を絡められ、逃げるコトなどできない。
まだ、ダメージが残っているのに、そんな風にしないでほしい。
――……じゃなきゃ、性懲りも無く、期待してしまうじゃない。
――せっかく、心機一転、頑張ろうって決めたのに。
そんな私の想いなどお構いなしに、先輩は私を連れて、バス停の方へ戻っていく。
「せ、先輩、私、帰りたいんですけど……」
「――お前が逃げるからだろうが」
「何ですか、それ!」
「それは、こっちのセリフだ!言うだけ言って、逃げ回りやがって――」
言い合いをしながらも、手は離さない。
パラパラとすれ違う人達は、痴話ゲンカに見えたようで、少し距離を取られてしまった。
引きずられるように連れられて大通りに出ると、先輩は、流しのタクシーを捕まえ、あっさりと私を押し込み、自分も乗り込んだ。
そして、自宅の住所を告げると、私の手を離す。
その、消えていく温もりが悲しくて――顔を上げられない。
――ホントに、何なの。
――急に現れて……連れ去り事案でしょ、コレ!
心の中で抗議してはみるけれど、でも、会えたうれしさに、気持ちのバランスが取れない。
時折、チラリと先輩を見上げるけれど、窓の外を見ているだけで、視線は合うことは無く。
静かな車内は、時折、タクシー会社の無線の声が聞こえるだけ。
それが、やっぱり悲しくて――約三十分ほどの道のりは、ずっと無言のまま。
――その間、握り続けていた私の手は、力を入れ過ぎて青くなっていた。
「ありがとうございました」
会計を終え、去って行くタクシーを見送ると、先輩は再び私の手を取ろうとして、止まった。
「……おい、手の色、おかしいだろ」
「……気のせいです」
「ちょっと、見せてみろ」
伸ばされた先輩の手を避けるように、私は、一歩後ずさる。
先輩は、眉を寄せると、あっさりと、その距離をつめた。
「逃げるな」
「逃げてません」
「――じゃあ、ちゃんとついて来い」
「……何でですか」
お互い、マンションの脇の道路の隅で睨み合う。
「……話があるっつっただろ」
「私には、ありません」
そう言って、視線を逸らすと、先輩は、大きく息を吐いた。
そして――
「――……ったく、このお嬢は!」
「へ??」
言うなり、先輩は私を抱え上げた。
「――きゃあああっっ……!!??」
私は、その浮遊感にギョッとし、思わず先輩の首元にしがみつく。
――それは、完全に、お姫様抱っこ。
「せっ、せっ……」
「ちゃんとしがみついておけ。――落ちたくなかったらな」
「横暴!」
「何とでも言え。素直についてきたら、こんなコトはしねぇんだよ」
いつもよりも近い声に、胸はあきらめも悪く跳ね上がった。
チラリと視線を向ければ、先輩の、まあまあ端正な顔が至近距離に。
速くなる鼓動に、なす術は無くて。
結局、私は、そのまま先輩の部屋まで運ばれてしまった。